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なまもののさけび

とりあえずつらつらとかきつらねます

05.30.01:45
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  • 05/30/01:45

10.08.16:33


 政宗を居室へ送り届けたのち、片倉は療養所へ戻りそれぞれの部屋へ顔を出して歩いた。忙しなく動き回る医者や薬師たちを労い、入所している兵に具合はどうだと声をかける。すっかり大所帯になった伊達をまとめていくには、一兵卒といえども決してないがしろにされず、顧みられる場であることを兵たちに印象付けておかねばなるまい。みなそれぞれに、己が大勢の中の一人でしかないことは自覚していようが、だからといって上役に声のひとつもかけられないというのは寂しかろう。不安の種にもなる。膨らめばやがて、疑心暗鬼の芽が顔をのぞかせる。そうなってからでは、遅い。ゆえに、片倉は暇を見つけては城内・城下を歩き回り、兵たちのもとへ顔を出している。特にこの療養所には、伊達に来てから日の浅い者が多い。念入りに声をかけておくにこしたことはないのだ。
 これは政宗の意向でもあった。彼自身、最近は兵のところへ顔を出すのを口実に執務室から雲散霧消するようなことも度々あり、片倉が頭を痛める原因にもなっているのだが、こればかりはきつく諌めることではないと片倉は思っている。伊達の大天井を支える屋台骨、そのさらに土台の部分を、政宗は固めているのだ。
 片倉にとっては実のところ、本意にかかわらず新入りにならざるを得なかった兵たちに対して「常に見られている」ことを暗に示し、妙な気を起こさせないようにする意味も含めての声かけなのだが、主の心中もまた同じかどうかはわからない。わからないが、少なくとも政宗は片倉に「それでいい」と言ったのだ。この件における主従間、多くを語る必要はなし。聞くだけ野暮である。
 部屋の戸は開け放たれている。空気を入れ替えるためだろう。
 八郎は布団の上で書を読んでいた。隣には若い男が座し、何事かを話している。
「あ……小十郎様」
 片倉の姿に気付くと、男が居住まいを正し頭を下げる。八郎もまた、書から目を上げ背中を丸めるようにして会釈した。顔の包帯こそまだとれないが、近頃の八郎は一人でだいぶ動き回れるようになっており、療養所の中を歩いたり、こうして部屋で書を読んだりして過ごしているようだった。
「順調に治ってきてるそうじゃねえか。医者が喜んでたぞ」
 八郎はもうひとつ会釈すると、書を閉じようとした。
「いや、構わねえ。長居はしない」
 片倉が言うと、八郎は痩せて落ち窪み気味になった目をゆっくり動かして片倉を見つめ、またひとつ会釈した。
「……孫子か?」
 何気なく文面を見やった片倉が問う。八郎が頷き、頁をつまんで、めくる。八郎は手指と腕が長い。こうして座しているのを見ても、それとわかるくらいだ。片倉は八郎の手元から、若い男の方へと視線を移した。
「オメェは確か、三治だったな」
 唐突に名を呼ばれ、男の肩がびくりと跳ねる。
「はい。自分も昨日まで、ここのお世話になっておりました」
「そう固くなるな。怪我はもういいのか」
「はい、もうすっかり」
 まだ緊張が抜けきらない様子ではあったが、三治は笑顔を見せながら答えた。幼さの残る表情とは裏腹に、その顔面にはいくつもの傷が走っている。
「八郎様に孫子を習っています。主の助けになればと」
「ほう、立派な心がけだ。政宗様もお喜びになる」
 片倉は素直に感心した。勢いの良さとガラの悪さが売りと言っても過言ではない伊達軍に、兵法書読みが増えるのは大歓迎だ。
「小十郎様は、やはり兵法を学ばれましたか」
「一応、一通りはな」
「書物を諳んじたりもされるのですか」
「習いたての頃にはよくやったが、丸覚えで満足しているようじゃいけねえと思い始めてから、俺はあまり重視していない」
 腰を下ろしながら答える。字面をそのまま取りこんでも、それを字面通りに実行できるかどうか、そして実行することがよいのかどうかはまた話が別であることを、片倉は場数を積むうちに理解したのだ。
「では、しない方がよいのでしょうか」
「諳んじるのは悪いことじゃねえ。要は頭でっかちにならねえことが大事なんだ」
 三治は片倉の言うことひとつひとつを熱心に聞いていたが、ふと眉尻を下げて苦笑した。
「自分は物覚えがよくない方なので、書物を丸ごと覚えている人などは、それだけで大いに尊敬してしまいます。ですが、その……小十郎様は、そういった人を取るに足らぬとお考えですか」
 歯切れ悪く言い終えた三治が何を言わんとしているのか、片倉には察しがついた。そんな人物を尊敬する自分もまた、取るに足らぬと考えられてしまうのか、と。
「……頭でっかちになるなと言ったが、それはひとりでいるときのことだ。覚えている本人が持て余しても、別の誰かが上手いこと使ってくれるかもしれねえ。きっちり覚えて忘れねえ、その一点を極めたような奴がいるならば、そいつは十分尊敬に値するだろう」
 自分にしては、喋りすぎているかもしれない。片倉は内心思ったが、不思議と口を噤む気にならなかった。
「三治、オメェは自分を物覚えがよくないと言ったが、だったら物覚えのいい奴が覚えていることを、上手く引き出して活かしてやれるような男を目指せ。勿論、まずは自分も学ばなけりゃ話にならねえが、覚えることにはこだわらなくていい。どうだ」
 やや唖然と、目を丸くして聞いていた三治は、どうだ、と問われて我に返ったような顔をしたが、片倉をまっすぐに見つめて力強く頷いた。片倉も満足げに頷き返す。そして、こちらに注がれる八郎の視線に気付いた。珍しいものを見るような目をしているのが、目だけの表情で逆にありありとわかった。片倉は思わず、無意味に咳払いをひとつして渋面を作った。
「……邪魔したな」
 立ち上がり、部屋を出る。視界の端に、頭を下げる三治の姿が見えた。

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10.08.16:32


「豊臣の奴ら、西に兵を出してます。大坂の守りは、石田三成に任せてるって話です」
「西国攻めの中心は、豊臣秀吉の直轄隊っす。様子を見た感じじゃ、竹中半兵衛もついていったはずです」
「豊臣は九州を攻めに行ったって、城下じゃすっかり噂っすよ」
 ひとまず起き上がれるまでに回復した仁助と文次は、大坂の様子を我先にとまくし立てた。
「石田か」
「関東に出てきた大谷の代わりといったところでしょう。進んで背後の守りに回る男ではない」
「ご主人様に言われちゃ、流石に『待て』をするしかねえってワケだ」
 石田三成。太閤の忠実なる左腕。凶烈にして純一、狂おしいほどのそれを一度目にしたならば、忘れることなど到底できまい。なにしろ戦とあらば真っ先に飛び出していくようなたちである。泰然と腰を据えて城を守る姿は、想像し難い。
「しかもあいつら、小田原にまであんなに兵を集めてやがって……」
 言いかけた文次の声が、尻すぼみになる。片倉が手配した斥候は、元々三人だった。帰ってきたのは仁助と文次の二人だけである。包帯の巻かれた手を握り締めた文次の隣で、仁助は俯き肩を震わせた。片倉は手を伸ばし、仁助の肩を叩いた。びくりと体が跳ね、仁助の目が恐る恐る片倉を見上げる。
「オメェはオメェの役目を果たせ。それが供養だ」
 険しい、しかし怒気のない表情で、片倉は言った。仁助はぎゅっと口元を引き結び、文次を見やると、二人で静かに頷きあった。
「小田原にも、豊臣の旗印が数え切れないほどありやした」
「正確な兵力はわかりやせんが、急ごしらえの陣所が何棟も造ってあって」
 今泉高光が言っていたことは、どうやら確からしい。豊臣は関東に兵を出しているのだ。
「オメェらを襲ったのは、やはり豊臣の兵か?」
「いえ、それが……よくわからねえんです」
「よくわからない?」
 政宗が怪訝そうに聞き返した。
「なら、野伏の類か」
「そうとも思えなかったんです。なんつうか……それなりのカッコだったような気がして」
 首を捻るようにしながら、仁助が言う。
「追剥って感じでもなかったし、どっかの兵だとは思うんす。思うんすけど、それが豊臣かっていうと……」
「腑に落ちねえ、と」
「へい」
 口をへの字にしながら、文次が頷いた。
「それなりのカッコはしてたけど……豊臣にしちゃ、地味だったよな?」
「そういやあそうだ。小田原で見たような装束じゃなかったぜ」
「けどよ、色は似てたよな、色は」
「そうそう、赤と黒の」
 確信すればするほど、奇妙と思ったことが次々に思い出されていく。政宗と片倉は、二人の喋るに任せることにした。見た目の話題を出しつくしてしまうと、二人はしばし腕を組んで考え込んでいたが、やがて文次が恐る恐る切り出した。
「お、覚えてるか? 与平を殺った奴のこと……」
「ああ、覚えてら……馬鹿でっけえ、ノコギリみてえな……うっ」
 仁助が口元を押さえる。
「得物がノコギリだったのか?」
「お、俺にはそう見えやした」
「Hum……ノコギリ、ねえ」
 顎に手をやり思案する政宗を横目に、片倉も記憶を手繰り寄せる。似たような得物を使う武将は、どこかにいなかったか。
「……どうだ、小十郎」
「は……残念ながら、思い当たる人物は」
「オレもだ」
 考えてみれば、ノコギリのような得物を持つ者が必ずしも名の知れた将とは限らないのである。飛び抜けた武功でも立てて広く話題にされなければ、群雄割拠の世に名が知れ渡ることなどあるはずもなく、ましてや一国の主の耳にその名が届くこともあるまい。
「……ま、とにかくだ。こいつらを襲ったのは、どうも豊臣じゃあねえらしいな?」
 気を取り直したように、政宗が言った。
「豊臣の仕業と見せかけるつもりだったのかもしれません」
「Exactly. そんなもんで竜を騙くらかそうとは、百万年早いぜ」
「伊達を焚きつけて豊臣にぶつける、目的はそんなところでしょうか」
「器が知れるってもんだ。……この前の書状も、案外その誰かさんの仕業だったりしてな」
 キナ臭くなってきやがった、と他人事のように呟く政宗を、片倉は無言のまま苦い顔で見やった。この主、よもや楽しんではいまいか。そんな気を感じ取ったか、政宗は片倉を一瞥すると、わざとらしく咳払いをひとつした。

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10.08.16:19
そういえば


JEが終わりましたね。
案の定途中で感想書くのめんどくさくなって全然書いてなかったんですが、ちゃんと全話見ましたよ。ええ見ましたとも。毎週の放映時間~放映後になると、なんかTLが発狂者だらけの阿鼻叫喚になってましたけど。途中で視聴を断念したくなるほど精神的にダメージ受けてる人が多かったみたいで、一体何が彼らをそこまで追い詰めたのかという点でたいへん興味深かったです(不謹慎)

とりあえず、振り返ってみて思うのは脚本ホントに好き勝手やったな!という感じでしょうか。だってもうなんか色々すごかったもの。色んなことしたくて色んなことやった結果がこれだよ!って感じだったもの。細かく分析してないんでわかりませんけど、アレ多分色んなルートからいろんな要素を引っ張ってきて一つの次元にまとめたんじゃないですかね。どう言ったらいいのかよくわからんのですけども。
たとえとして思いついたのが「リレー漫画」でした。全体を見直すとリレー漫画みたいな出来上がりだなって。毎回やりたいことがあって描くんだけど、次の作者がそれを生かすかどうかはわからなくて伏線が放り出されたり、出したいキャラがいっぱいいるから無理矢理いろんなシーン突っ込んだり、キャラ設定はあるんだけどキャラ解釈がみんなちょっとずつ違ってて同じキャラなのにすんごいブレたりすんの。あの感覚に似てるな、と思いました。リレー漫画やったことあるんでよくわかります。自分の番が来るまでに色んなことが起こりすぎちゃっててもう収拾つかないの。ただあれ、見てる方としては馬鹿じゃないのかこいつらっていうモンにしか大体ならないんだけど、描いてる方は超楽しいんですよね。その時その時でやりたいことやっちゃうからね。刹那的享楽。だいぶ前の記事で考察めいたことを書いておりましたが、そんなこたぁなかったね! そんなに深く深く考えて考えることを楽しむような作品じゃあなかったね! それでいいと思います。十分です。うん。

発狂者を多く出した原因の一つと思われるのがクラスタ諸兄言うところのキャラのブレなんですが、二次創作だと「アッこの作者●●かき慣れてねえな」ってのをよく見かけるんで、特にこれといって何も感じませんでした。この点に言及している方は恐らく二次なら許せるが公式は許せんという方が多いんじゃなかろうか。公式が関わっているというのに何だこの体たらくは情けない、というスタンスの方が多そうな印象を受けました。まあおいらは割とどっちでもいいです。というかそもそもそこらへん全く気にしていないといっても過言ではない感があるのでした。いくら原作があって監修がされてるといえども、あくまで別のスタッフが作った派生作じゃないか……まず監修がどの程度監修として機能してたかどうかもわからんじゃないか……という、真剣にファンやってるBSRクラスタに殺されそうな感想しか持てないので困りますね。別に困らないけど。ああそうか要するに原作の読み込みが足りないにわかに心底好きなものを踏みにじられてる感があるんだろうなっていうのはTLの感想やらRT意見やら見ながら常々思ってましたが、まずそこまで熱を入れられるのが素晴らしいと思う次第。おいらあれだもの、黒田がアニメ画で動いてるっていうことだけでもう大満足だったもの。全く軍師してなかろうが大砲で飛ぼうが、出番があって動いてるということだけでもう心がとっても元気になってしまうもの。大友勢も可愛かったし。金吾さんは天使だったし。長曾我部は美人だったし。長曾我部は美人だったし。

TLを眺めた感じでは、キャラのブレ方と戦闘描写の残念さと話のまとまりのなさと展開の無茶苦茶さあたりに非難が集中してたような気がしますが(要は全体じゃねえかとか言ったらおしまいなので言っちゃいけない)、よくよく考えてみるとおいらはああいう続きもの(という体で作られている)の話でも、場面を切り取って楽しんでしまう節があるんですよね。こっからここまでのいきさつがどうのとか、いつからいつの間で誰がどう変化したからどうのとか、そういうストーリーの流れとかではなく。だから関ヶ原がはかいこうせんぶっ放そうが、片倉さんにゲーム版毛利の台詞が当てられてようが、第六天魔王が復活しそこねようが、あんまり気にならなかったんじゃあなかろうかと。ぶつ切りで見てしまうんですよな、ストーリーがあっても。やだここの座りこんでる伊達可愛い顔してる……とか、毎回感想がそんなんですからね。感情とか考察とかあったもんじゃないですからね。それを元に自分が何か書こうと思ったらやりますけど、そうでなきゃいちいちそんな深く考えて見ません。今日もちかちゃんは作画がそこそこ綺麗だった、以上。という。なのでたいへん気楽に見られましたし、全く悩むこともありませんでした。むしろ毎回なにをやらかすのかとにやにやしながら眺めていられました。たのしかったです。
そうです。たのしかったのです、JE見るのは。そしてJE見て正気を保てなくなっている人々を見るのは。クラスタ諸兄が何をどうとらえ考えているのかが如実に出る12週でした。うふふ。

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10.01.11:03
(略)⑤

「よろしいのですか、吉継様」
 絵図を丁寧に畳みながら、男が問う。
「犬を逃がしたようですが」
「アレはよいのよ。小田原に豊臣が出張っているとの情報を、無事に奥州まで持ち帰ってもらわねば困るゆえ」
 包帯の下で、笑んだのだろうか。喉の鳴る音が漏れる。
「三成様に知られれば、なんとします」
「何故逃がしたと吠える様が浮かぶ。ぬしにもわかろ」
 吠えるついでに、走って追いかけようとしかねない。兜の眉庇に手をやりつつ、大谷はまた喉を鳴らした。
「なに、構わぬ。こちらの犬は始末したのだ」
「こちらの犬こそ、お知らせするものとばかり」
 男が見やった先には、くしゃくしゃになった紙がある。何かしらの書状のようだった。
「伊達に出兵の兆しあり、ですか」
「謀書よ。あれは豊臣の者ではない」
 北条領に滞在していた大谷の元に、豊臣の間者を名乗る小物がこの書状を持ち込んだのは、つい先日のことである。伊達政宗が出した軍勢催促状、と称されたそれを大谷は一見して謀書と見抜いた。より正確に言えば、書状を持ち込んだ「間者」が偽者であると見抜いたのだ。豊臣の情報伝達網において強い権限を持たされている大谷は、使う間者の顔を検めることにも余念がなかった。偽者が紛れ込めば一目でわかる。
「われの前に顔を晒したのが運の尽きよ」
「げに」
 男は柔らかい声で返事をし、手甲をはめた。
「この書状。恐らくは、豊臣を焚きつけ伊達を攻めさせるためのものであろう。われらが伊達とぶつかって得をする勢力など、数えれば数えただけあるというもの。詮索するだけ骨折りよ、此度ばかりはな」
 言いつつ、大谷は書状をつまみあげると、油皿でちろちろと燃える火にかざした。細い煙を上げ、紙切れが端から灰になっていく。
 この件が秀吉や三成の耳に入れば、謀書とわかっている以上、馬鹿正直に伊達を攻めることはないにせよ、豊臣を陥れようとした何者かを炙り出して叩き潰さねば気が済むまい。いまそのような騒ぎを起こされては、方々が台無しになりかねない。ゆえに、偽間者は既にこの世のものではないというわけだ。
「……さて、頃合いよ。われは抜ける」
 手を軽くはたいて煤を落とすと、大谷はまた眉庇に手をやった。目深にかぶった兜は、大谷自身のものではない。兜だけでなく、鎧から陣羽織、足袋に至るまで、大谷が普段身につけているものとは似ても似つかない。しかし兜の下を覗き見れば、面頬と包帯に覆われた、いつもの大谷の顔である。ただし面頬は黒かった。
「お似合いです」
「ぬしもな」
 大谷が先程から言葉を交わしている男。肌を包帯で覆い、肋骨の浮き出たような胴丸を着け、頭巾のような兜をかぶった、蝶。その姿こそ、大谷を知る者であれば同じように思い描くであろう「大谷吉継」であった。
「駕籠を用いたは正解であったな、五助。流石のぬしにもわれの輿は動かせまい」
「は……」
「佐竹と宇都宮の相手は任せる。終え次第、ゆるりと戻るがよかろ」
 すいと戸が開いた。暗い庭に、駕籠が控えているのが薄ぼんやりと見える。黒い具足姿の大谷は、近習の手を借りそれへ乗り込んだ。
「たまには揺られて往くのも、悪くない」
 視線を投げてよこす。こちらの視線とかちあった。駕籠の戸が閉められ、しずしずと庭から運び出されていく。ややあって、門の方角から「湯浅五助様、御出立」と声を張り上げているのが聞こえてきた。
 これでよい。
 赤い面頬と包帯の下で、湯浅五助は小さく息を吐いた。彼は大谷配下の将、そしていまは大谷の陰武者である。急ぎ大坂へ戻る大谷の代わりに、もうしばらくだけ佐竹と宇都宮を睨む役目を、彼は仰せつかった。何も戦場へ出ろというのではない。「大谷吉継」として、ここに残ることが重要であった。大谷が目と鼻の先で数珠を繰(く)っていると思えば、佐竹と宇都宮、そして北条も妙な動きはするまい。
 実のところ、いまの大坂城はもぬけの殻と言ってよかった。豊臣の本隊は西国へ出ており、そこには秀吉の直轄部隊のみならず、石田三成隊も同道している。当初、石田隊は大坂に残る手筈であったが、隊編成に問題が生じたため急遽秀吉と共に西へ向かい、大坂は大谷が守備することに決まりかけた。しかしそこに大谷の関東行きが重なっており、どちらも取りやめることができない手前、大阪には大谷隊の兵と石田の影武者が置かれたのだった。そして大谷はいつもどおりに、近習と数人の兵のみを連れて北条領へやってきたのである。
 佐竹・宇都宮との会合は済ませたが、大谷の滞在期間はまだしばらくあった。その残りを、五助は大谷としてここで過ごすのだ。そしてそのまま、大谷として大阪へ帰る。大谷が移動手段としていつもの宙に浮く輿ではなく、駕籠を用いたのはそのためだった。五助にあれは動かせない。行き帰りの足は、先程五助として出立した大谷と同じく、駕籠だ。他の近習たちにも、今回のことはすべて伝えてあった。みな五助と同じく、大谷の意向を忠実に守る者ばかりである。露見することはまずあるまい。
 手持無沙汰も手伝って、あれこれと考えを巡らすうち、五助はふと気になることを思い出した。ここへ到着するなり、大谷が北条方へ要求したこと。あれは一体何が目的だったのか。今日に至っても大谷は要求の目的を明かさず、ただ曰くありげに北条の兵を眺めているだけだった。佐竹と宇都宮を牽制するため、だけとも思えない。主の真意を測りかねているおのれ自身に若干の苛立ちを覚えつつ、所在なさげな右手が口元に伸びた。
「……」
 もう少しばかり、肌触りのよい包帯に変えて差し上げるが宜しいかもしれぬ。三成様にもご相談して。喉まで上がってきた言葉を、そのまますうっと沈める。こんな場所だからこそ、どこで誰が聞いているやもしれない。



初登場・湯浅五助さん。

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09.29.20:37
唐突に(略)④


「筆頭! 小十郎様! 斥候が戻りました!」
 外へ飛び出した片倉は、血の気が引くのを感じた。肩を借り足を引きずりながら近づいてくる者。糸が切れたように座り込んでいる者。衣の赤黒さは泥にまみれたからではあるまい。さっと目を走らせる。足りない顔はすぐにわかった。主が横をすり抜け走り寄っていったのを追う。
「ひ、筆頭」
「よく戻った、仁助。無理に喋るんじゃねえ」
「すいやせん、こんなザマで……情けねえや」
「面目ねえっす……筆頭、小十郎様」
「文次、オメェもよく帰ってきた。命があってなによりだ。……おい、ボサッとしてねえで運べ!」
 療養所に運び込まれた二人の兵は、疲弊してはいたものの傷は浅く、命に別状はないということだった。
「医者が言うには、手当てがよかったんだろうとさ。改めて礼を言うぜ、ありがとうよ」
「約定の件は聞き及んでおりました。当然のことをしたまでです」
 政宗と片倉の前に座っているのは、文次に肩を貸していた男である。日に焼けた顔に、横一文字の傷があった。
「俺からも、お礼申し上げる」
「そう畏まってくださいますな、片倉殿」
「名を、お聞かせ願えますか」
「宇都宮家家臣・今泉高光と申します」
 高光は南武蔵にある北条の支城へ所用で出向いた帰り、武蔵から上野に入る手前で仁助と文次を偶然見つけたのだという。高光が掲げていた宇都宮の巴紋を見た二人は、保護を願い出た。
「宇都宮城へ立ち寄り、怪我を癒してはいかがかと申したのですが、一刻も早く注進をせねばならぬとお二人が強く申されるのでな。そこで出来るだけの手当てをし、こうして馬を潰す勢いで駆けて参ったというわけです」
 そう話す高光自身も、無理な遠駆けのためか、いささかやつれて見える。
「北条へは、どういった要件で?」
「北条の城と申しましても、いまあそこに留め置かれているのは豊臣の兵なのです」
「豊臣だと」
 思わず政宗が声を荒げると、布団の中で文次が呻いた。
「政宗様」
「……Sorry. しかし、なんだって豊臣の兵がいま北条領に来てやがる。小田原城再建の人員は、北条方から出してるはずだろ」
 小田原征伐の後、豊臣は北条を取り潰さず、戦で半壊した小田原城の修理を命じていた。作業に従事する兵や人足に禄を与えてはいるようだが、人員や資材の調達は北条方が全て請け負うかたちになっているともっぱらの噂であった。
「修理が始まって以降、豊臣方は作業の視察ついでに宇都宮・佐竹と顔を合わせる場を定期的に設けておるのです。それが此度は、南武蔵の八王子城にて行われました」
「豊臣は会合の度に兵を引き連れてきやがるのか」
「いえ、今までは少人数でした。軍勢を伴っておるのは、私も初めて見たのです。聞けば、小田原の本城にも多くの兵を留め置いていたとの由」
「なんと」
「しかしこちらは直接見たわけではありませぬ。……そちらのお二方が目覚められたら、聞かれるが宜しいかと。相模を抜けてこちらへ戻ってきたはずです」
「……ええ」
 静かに眠る二人を一瞥し、片倉は口元を引き結んだ。命がけで情報を持ち帰ったのだ。厚く労ってやらねば。
「その会合ってのは、まさか豊臣秀吉が直々に来るわけじゃねえんだろう?」
 何事か興味を抱いたらしい政宗が問うた。高光が小さく頷く。
「顔ぶれは回ごとにまちまちですが、先日お出でになったのは大谷刑部少輔殿でした」





次は刑部回です。

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