05.31.13:07
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09.28.22:13
唐突に(略)③
「同盟を申し入れたき次第にございます」
「同盟だと?」
僅かに身を乗り出した政宗であったが、高定は眉一つ動かさない。
「豊臣はどうした。小田原を忘れたわけじゃねえだろうに」
「豊臣は我らを見限る腹積もりにございましょう」
「話が見えてこねえな。アンタの主人が何かヘマでもやったのか?」
「他言無用を条件に、お話しいたします」
見上げた根性だ。片倉は内心、舌を巻いた。敵大将を眼前にして、このふてぶてしさである。
「……構わねえな、小十郎?」
「政宗様のご随意にされるが宜しいかと」
「OK, 今から聞くことは漏らさねえ。誓ってだ。ワケを聞かせてもらおうじゃねえか」
政宗と片倉、二人の視線が注がれる中、高定は極めて平坦な声で述べた。
「我が主、宇都宮広綱様……先達て、身罷りもうした」
「……What!?」
「なんだと」
思わず片倉までもが声を上げていた。そんな情報はどこからも入ってきていない。
「我ら家臣一同、広綱様の逝去は固く伏せてございます。無論、大坂へも注進しておりません」
二人の様子から察したか、高定が静かに続けた。
「しかし何処からか、豊臣方へと情報が抜けたようです。近頃なにかと理由をつけて、当主は大坂へ参上せよという書状を送ってくる。致し方なく、ご病気ゆえ参上し難しとの返答をしておりますが、見抜かれておりましょうな」
「内通者か」
「八方手を尽くしましたが、それらしき者は遂に見つからずじまいです。豊臣に始末されたという可能性もありましょう」
「宇都宮じゃなくて、佐竹から漏れた線は?」
「正直なところを申し上げれば、その公算は大でしょうな」
恐ろしくあっさりと言ってのけた高定を見て、片倉は軽く目眩を覚えた。佐竹は宇都宮と縁戚に当たる、真っ直ぐと不器用が売りの勢力である。辛抱強く戦も上手いが、確かに情報戦には疎かろう。しかし高定にとっては、他ならぬ主君の縁者である。そんな佐竹を言外で評する高定の割り切り方は、いっそ清々しい。
「後継ぎはいねえのか」
「私が若君の後見を務めておりますが、いかんせん幼すぎる。そして私自身は決して若くない身でございます」
豊臣軍は、なによりも力を尊ぶのが基本方針と言っても過言ではない。たとえ身内であっても、弱者には容赦のない面がある。同盟という一時の協力関係しか持たぬ者が相手であれば、言わずもがなであろう。
「豊臣が宇都宮を潰しにかかるのは時間の問題、ってことか」
「然様」
「佐竹のおっさんはどうしてる。両毛と北武蔵が豊臣に押さえられれば、佐竹もただじゃ済まねえはずだ」
佐竹義重が領する陸奥南部と常陸は、伊達領と宇都宮領を隔てる土地である。佐竹もまた宇都宮と同じく豊臣に与する勢力ではあるが、隣国・伊達との境界争いはすれども、天下を狙って他国を積極的に攻める性質の軍ではない。そして宇都宮領を豊臣が接収すれば、佐竹領に手を伸ばすのは容易であろう。
「此度の同盟申し入れ、佐竹殿との合議にて決したものにございます」
「Ha! あの頑固者がな」
武骨な鎧をまとい、大槍をふるう巨漢の姿を思い出しながら、政宗は不敵に笑む。
「鬼義重も、土地を取られちゃかなわねえってこった」
「我ら宇都宮と佐竹勢が北関東の押さえになっている限り、豊臣とて徒に北上はしますまい」
「OK, 事情は大体わかった」
組んでいた腕を解くと、政宗はおもむろに立ち上がった。
「同盟、と言ったな」
「然様。貴国の下に入り手足となるのでなく、あくまで対等とさせていただきたい」
平然と高定が言った。同盟を申し込む側が条件をつけようとする。しかも、いまの伊達に対して。片倉は思わず政宗の顔色を窺ったが、主は満足げに笑んでいた。
「いい根性だ。そうでなくちゃならねえ」
「了承頂けましょうか」
「Of course. アンタらと伊達は対等だ。お前もそれでいいな、小十郎?」
「はっ」
「……有難う存じます」
整った姿勢のままで頭を下げた高定を見やり、武人として年経るならばこうしたかたちもひとつやもしれぬ、と片倉は頭の隅でふと思った。
「アンタらは一応、豊臣への義理立てもあるだろ? 伊達と繋がったとはおおっぴらに言えねえはずだ」
「佐竹殿もそれを気にしておいででした。ゆえ、我らは何かしらの事が起きるまで、約定を外へ漏らしませぬ」
「OK. こっちもそうさせてもらうぜ」
それが互いのためだろう、と政宗は呟き高定の方へ進み出ると、目前に座した。片倉をちらりと見やる。無論、片倉も同意見であった。
「佐竹との連絡は、そっちに任せてもいいか。あそことは長年、直に事を構えるような間柄なんでね。うかつにcontactが取れねえ」
先程までとは打って変わって、低く落とした声で政宗は言った。蒼い視線が、値踏みするように下から上へと動く。
「存じております。佐竹殿とて、危惧するところは同じかと」
高定は動じない。やや目を眇めるようにして、この若い領主を見つめ返した。
「我ら宇都宮が中継ぎいたしましょう。今まで直接やりあう機会を持たなかったのが、不幸中の幸いでしたな」
「よく言うぜ」
けろりとした顔で言ってのける老将を前にして、政宗は明朗に一声発すると、心底愉快そうに肩を揺らした。
まだまだ続きます。
高定さんは強か。
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09.26.00:18
唐突に書き始めた話②
戸を開けると、煎じたばかりらしい生薬の匂いが鼻をついた。
大坂方面への斥候を手配した足で片倉が向かったのは、城下に設けられた兵卒用の療養所である。戦に出て負傷したり、病にかかったりした兵のうち、特に医者がついていなければならぬようになった者を、一時的に収容しておける長屋のようなものがここにあった。他の勢力を柔軟に吸収し拡大すること著しい昨今の伊達軍である。兵士の全体数が増えれば、程度はどうあれ患者も増える。療養所詰めの医者たちは日々忙しなく過ごしていた。
いまここに入所している兵の多くは、元から伊達軍にいたのではない。伊達に吸収された勢力の兵たちである。直近の戦で引き入れた兵は、守るべき所領を持たぬものばかりであった。豊臣が台頭して以降、土地と根深く結びついた武士が多い関東以北にも、土地を持たぬ勢力が増えたと片倉も聞いてはいたが、まともにぶつかりあったのは先日が初めてである。聞けば、俸禄次第でどこの軍にも属す傭兵紛いのくらしで、糊口をしのいでいたそうだ。自然、日ごろの健康状態が良いと言えぬ者も少なくない。ましてや、伊達と一戦交えた上で吸収されたのである。重軽傷を問わず傷を負った兵の数は相当なものであった。政宗から直々に新入りの目付けを任されている立場として、近頃の片倉は田畑通いにも劣らぬ頻度で、この療養所に足を運んでいた。
部屋の中では、医者が患者に湿布をしてやっているところだった。
「これはこれは。小十郎様」
「具合はどうだ」
「顎の完治まではいましばらくかかりましょうが、他はさして深い傷でもなし、順調に回復しています。元々芯のお強い方なのでしょう」
手早く処置を終えると、医者は一礼して静かに退出した。
片倉はおもむろに座し、布団に寝かされている男を注視した。顔の大部分が包帯で覆われ、目以外の部品がほとんど見えない。
「まだ痛むか」
男は僅かに首を動かして片倉を見返し、黙したままゆっくりとまばたきを一つした。無理もない。なにしろ顎が砕けているのだ。ゆえに本人の口からはまだ一切の言葉を聞いていないが、他の兵からいくらかこの男の身の上を聞いていた。
名は片岡八郎、豊前の生まれだという。戦の中での覚えはないが、担ぎ込まれてきたとき身に着けていた陣羽織や鎧、そして配下と思しき足軽たちの気遣わしげな表情を思い出すにつけ、いっぱしの部将であったに違いない。
伊達に将として身を置くか、戦場から退き城下で暮らすか。
八郎は声こそ発せないが、目と、比較的無事な首から下をある程度動かしての意思疎通ができる。顎が砕ける重傷を負いながらも、八郎は将であり続けることを選んだ。将として遇する以上、回復し次第、伊達の部将として配下の兵をまとめてもらわねばならない。だからこそ、こうして部屋一つを与え医者をつけているのだ。
「じっくり養生しろよ」
長居をする用件でもない。片倉は八郎を一瞥し、部屋を後にした。
面倒事は続け様に起こるからこそ面倒事なのかもしれない。足早に中庭へと進む。
「政宗様」
木刀を振っていた主が振り向いた。
「どうした小十郎」
「下野の宇都宮から使者が参りました。政宗様にお目通り願いたいとの由」
「宇都宮?」
政宗は訝しげに目を細めた。宇都宮と言えば、両毛と北武蔵を領する東国の雄である。佐竹や上杉と結んで北条を牽制しながら、東北方面への睨みを利かせてきた由緒の古い一族だ。他国へ派手に攻め込む戦はしないが、先の小田原攻めでは佐竹勢と共に豊臣に与していたはずで、政宗にも覚えがあった。
「何しに来やがった、宇都宮は」
羽織に袖を通しながら、ぶっきらぼうに問う。
「わかりません。しかし、何やらただならぬ様子で」
待ちかまえていた使者は、政宗の想像とはだいぶかけ離れていたらしい。表情は抑えているものの、ぎょっとしたような空気を微かに片倉は感じ取った。思わず眉根を寄せる。相手に気取られていないらしいことが幸いだ。
「此度はお目通り叶いましたこと、誠に有難う存じます」
政宗が座すと、使者がよく通る声で言った。
「畏まらなくてもいいぜ。堅苦しいのは嫌いでね」
いつもの調子で答えた政宗を一瞥してから、片倉は使者の姿を改めてじっくりと眺めた。
精悍な顔つきをした男だった。老人と言っても差し支えない年ではあろうが、容易にそうとは言わせない凄味がある。静かに首筋を見下ろす、軒下のつららのような男。
「宇都宮家筆頭家老、芳賀高定にございます」
芳賀高定。
片倉はこの名に聞き覚えがあった。身内同士の小競り合いが絶えなかったかつての下野国内において、先代の死を契機に居城を追われた幼少の宇都宮家嫡男を支え、その智謀を以て主の障壁たる者たちを葬り去ること度々、そしてついには宇都宮城奪還を果たした、白虎の老獪なる腹心。高定がいなければ、宇都宮家は保てないとまで揶揄されている程である。
そんな男が敵地とも言える奥州へ乗り込んできたのだから、やはりただごとではない。
「用件を聞こうか。言ってみな」
続きます。
ちなみに今後も捏造モブがバンバン出てくるのでご了承ください。
09.25.02:36
唐突に書き始めた話①
腰を下ろした畔の色づきが、この幾日かでぐんと広がったように思える。
ふくよかに実り重たげに頭を垂れている黄金の稲穂も、いまは沈みかけた西日の色に染まっているが、畔にすっと立った彼岸花の赤は、しみわたるような夕焼けの赤よりもなお赤い。燃えるようなそれからすいと目を滑らせつつ、片倉小十郎は立ち上がって伸びをすると、刈り入れを控え秋風にさらさらと鳴る田を見渡した。今年は稲の育ちが良い。農民たちの努力はもちろんのこと、天候にも恵まれた。皆、刈り入れを心待ちにしているだろう。泥田に足を浸し、草いきれの匂いを吸い込んできた片倉も、その心持はおなじである。
充足一歩手前の感慨に耽るその耳に、風に乗って、土を勢い良く蹴る音が飛び込んできた。口元を引き結んで見返る。武人の顔に戻っていた。
「どうした」
「至急戻られよとの仰せです。馬を」
常の所用で、田畑に出ている片倉が呼び戻されることはないに等しい。野良仕事の途中で声がかかったならば、すなわち火急ということになる。手早く身支度を済ませ参じた居室で、主は書状と思しき紙切れをやや不機嫌そうに、しかしどことなく楽しそうに、眺めていた。実のところ、不機嫌そうな表情の方がつくり顔であろう。証拠に、片倉が顔を出したのを見るや、書状と顰め面を見比べてにやにやしだす始末である。
「いかがされましたか」
主といえど呼びつけておいてその態度は何事かと顔で訴えてはみるが、主・伊達政宗は一向に意に介す様子もなく、持っていた書状を片倉の前に突きだした。
「豊臣はまだお前に未練があるらしいな」
片倉の表情がますます険しくなったのを見て、政宗は小さく鼻を鳴らした。
「モテる男はつらいな、小十郎」
「何を申されます」
「Jokeだ。引く手数多の右目を持って鼻が高いぜ」
「政宗様!」
「そう怖い顔すんなよ。何もお前を茶化したくて呼びつけたわけじゃねえ」
「でなければ困ります」
軽く眉間を押さえ、書状に視線を落とす。兵卒と部将、軍師を差し出し従えば土地はそのままにしておいてやる、逆らうなら力づくで接収する、書状の内容をかいつまめばこのようなものであった。
「わざわざ軍師と言い変えて、その実、名指ししてやがるのが気に食わねえな」
要は片倉を戦力として豊臣に取り込もうというのだろう。片倉もこの件には心当たりがありすぎるほどにある。だからこそ、書状に目を通してみて僅かばかりの違和感を覚えずにいられなかった。
「政宗様」
「何だ」
「この書状の差出人、まこと豊臣だと思われますか」
政宗の蒼い視線が、「右目」の瞳に注がれた。謀書ではないか。片倉はそう言ったのである。
「なぜそう思った」
「ひとつは、時期」
言って、西日の燃え残る外へ目をやる。
「書状を寄こした以上、欲するのは攻め込む口実のはず。仕掛けてくるのはこちらの返答を待ってからということになります。いまは丁度刈り入れ直前……返事を引き延ばして刈り入れを終わらせ、こちらの兵糧を整えることも容易でしょう。相手に準備の時間を与える……蓄え多しと喧伝される豊臣とはいえ、そのような愚を犯すとは思えません。時期と申し上げたのはそういった意味です」
「成程な」
「そしてもうひとつですが……あの男が時間をかけて回りくどく、書状など出すものでしょうか」
時の浪費を極度に嫌う豊臣の軍師を思い出しながら、政宗は独眼を伏せしばし黙した。片倉の言はもっともである。しかしそれならば、書状を偽造した何者かが存在するはずだ。それは何者なのか。
「……探らせるか」
「御意」
続きます。
09.24.10:36
戦煌お疲れ様でした&サイト更新
だいたいひとつき弱ぶりくらいの緑川ですねこんにちは。
先日はこれまた久しぶりのイベント参加でございました。
直前まで行けるかどうかわからなかったんで参加表明してなかったんですが、無事参戦することができました。手ぶらで行ったにもかかわらず、おいしいものをたくさんいただいて帰ってきました( ゚∀゚ )会場で構ってくださった皆様、どうもありがとうございました。初めての方や何度もお世話になってる方はもちろん、1年ぶりくらいにお会いできた方もいたので、今回は行けて本当に良かったです。運大事。
そういえばなにやら今回は諸々のプチオンリーとそのアフターがすごいことになっていたようで、ふぉろわさん方とご飯食べながらTL見て「なにこれすげえ」を繰り返しておりました。関係者様各位の情熱と行動力と計画性に頭が下がります。
参加された皆様、お疲れ様でした!
さて、サイトの方には夏の間に溜めたログを加筆してうpしてきました。
日奇帳シリーズは語るときの都合があるのではじめに書いたときは台詞ばかりになっている傾向がありまして、そこへ少し地の文を足してからサイトにあげるようにしているんですが、この加筆をするときにものすごい頻度で誰かしらが何かしらのものを食っている描写が入ることにお気づきの方はいらっさいますでしょうか。これね、一応意識してるんです。いや、意識してわざわざそれを入れているという意味ではなくて、気がつくともの食ってるシーンを入れてしまうということに自分で気付いているのでどうしようかなと思っているっていう方の意味です。
一箇所に集めて会話をさせつつしばらく留めておける状況って、どうも食事くらいしか思いつかないんですが、どうなんでしょうこれ。大人キャラなら酒を飲ますという手もあるんですが、どっちにしろ飲食ですねこれ。あとは単純にキャラがなんか食ってる描写が好きだっていうだけですね。好きな割に食ってるもんと食い方が適当ですけども、それは緑川本人が特別おいしいものを食うこと等々に執着してなくて正直どう書いたもんかよくわかってないせいもあるんじゃなかろうかと思います。サッポロポテトおいしい。日々の糧にしたい。

