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なまもののさけび

とりあえずつらつらとかきつらねます

05.30.14:17
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  • 05/30/14:17

10.08.16:32


「豊臣の奴ら、西に兵を出してます。大坂の守りは、石田三成に任せてるって話です」
「西国攻めの中心は、豊臣秀吉の直轄隊っす。様子を見た感じじゃ、竹中半兵衛もついていったはずです」
「豊臣は九州を攻めに行ったって、城下じゃすっかり噂っすよ」
 ひとまず起き上がれるまでに回復した仁助と文次は、大坂の様子を我先にとまくし立てた。
「石田か」
「関東に出てきた大谷の代わりといったところでしょう。進んで背後の守りに回る男ではない」
「ご主人様に言われちゃ、流石に『待て』をするしかねえってワケだ」
 石田三成。太閤の忠実なる左腕。凶烈にして純一、狂おしいほどのそれを一度目にしたならば、忘れることなど到底できまい。なにしろ戦とあらば真っ先に飛び出していくようなたちである。泰然と腰を据えて城を守る姿は、想像し難い。
「しかもあいつら、小田原にまであんなに兵を集めてやがって……」
 言いかけた文次の声が、尻すぼみになる。片倉が手配した斥候は、元々三人だった。帰ってきたのは仁助と文次の二人だけである。包帯の巻かれた手を握り締めた文次の隣で、仁助は俯き肩を震わせた。片倉は手を伸ばし、仁助の肩を叩いた。びくりと体が跳ね、仁助の目が恐る恐る片倉を見上げる。
「オメェはオメェの役目を果たせ。それが供養だ」
 険しい、しかし怒気のない表情で、片倉は言った。仁助はぎゅっと口元を引き結び、文次を見やると、二人で静かに頷きあった。
「小田原にも、豊臣の旗印が数え切れないほどありやした」
「正確な兵力はわかりやせんが、急ごしらえの陣所が何棟も造ってあって」
 今泉高光が言っていたことは、どうやら確からしい。豊臣は関東に兵を出しているのだ。
「オメェらを襲ったのは、やはり豊臣の兵か?」
「いえ、それが……よくわからねえんです」
「よくわからない?」
 政宗が怪訝そうに聞き返した。
「なら、野伏の類か」
「そうとも思えなかったんです。なんつうか……それなりのカッコだったような気がして」
 首を捻るようにしながら、仁助が言う。
「追剥って感じでもなかったし、どっかの兵だとは思うんす。思うんすけど、それが豊臣かっていうと……」
「腑に落ちねえ、と」
「へい」
 口をへの字にしながら、文次が頷いた。
「それなりのカッコはしてたけど……豊臣にしちゃ、地味だったよな?」
「そういやあそうだ。小田原で見たような装束じゃなかったぜ」
「けどよ、色は似てたよな、色は」
「そうそう、赤と黒の」
 確信すればするほど、奇妙と思ったことが次々に思い出されていく。政宗と片倉は、二人の喋るに任せることにした。見た目の話題を出しつくしてしまうと、二人はしばし腕を組んで考え込んでいたが、やがて文次が恐る恐る切り出した。
「お、覚えてるか? 与平を殺った奴のこと……」
「ああ、覚えてら……馬鹿でっけえ、ノコギリみてえな……うっ」
 仁助が口元を押さえる。
「得物がノコギリだったのか?」
「お、俺にはそう見えやした」
「Hum……ノコギリ、ねえ」
 顎に手をやり思案する政宗を横目に、片倉も記憶を手繰り寄せる。似たような得物を使う武将は、どこかにいなかったか。
「……どうだ、小十郎」
「は……残念ながら、思い当たる人物は」
「オレもだ」
 考えてみれば、ノコギリのような得物を持つ者が必ずしも名の知れた将とは限らないのである。飛び抜けた武功でも立てて広く話題にされなければ、群雄割拠の世に名が知れ渡ることなどあるはずもなく、ましてや一国の主の耳にその名が届くこともあるまい。
「……ま、とにかくだ。こいつらを襲ったのは、どうも豊臣じゃあねえらしいな?」
 気を取り直したように、政宗が言った。
「豊臣の仕業と見せかけるつもりだったのかもしれません」
「Exactly. そんなもんで竜を騙くらかそうとは、百万年早いぜ」
「伊達を焚きつけて豊臣にぶつける、目的はそんなところでしょうか」
「器が知れるってもんだ。……この前の書状も、案外その誰かさんの仕業だったりしてな」
 キナ臭くなってきやがった、と他人事のように呟く政宗を、片倉は無言のまま苦い顔で見やった。この主、よもや楽しんではいまいか。そんな気を感じ取ったか、政宗は片倉を一瞥すると、わざとらしく咳払いをひとつした。

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