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なまもののさけび

とりあえずつらつらとかきつらねます

05.27.04:40
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  • 05/27/04:40

11.30.23:58
夜泣き貝


「よく泣くおっさんだなァ、おい」
「誰がおっさんじゃ」
「もちっと身綺麗にすりゃいいのによう」
「ふん、どうせ泥だらけになるんだ。手間をかけるだけ無 駄ってもんさ」
「勿体ねえな、そこそこ男前なのに」
「そこそこって言うな」
「アァン? 俺の方が男前だろうがよ」
「はいはいお前さんにゃ負けるよ」
「そんなアンタにこれをやろう」
「何だこれは」
「何って、夜泣き貝だよ」
「おかしな名前の貝だな」
「……アンタ案外もの知らねえんだな。瀬戸海にゃごろごろいるぜ」
「海育ちのお前さんと一緒にせんでくれ。で、それをどうするんだ? 食うのか?」
「違ぇよ。こいつは夜泣き封じのまじないものさ」
「生憎、小生はそういうものの効力を毛ほども信じてないんだがね」
「馬鹿にしちゃいけねえよ。どんなに夜泣きのひどい赤ん坊でも、こいつを枕元に置きゃあ ピタリと治まるってんだから、スグレモノだぜ」
「結構なこった。で、そいつはお前さんが言うところの『おっさん』にも効くのか?」
「試してみる価値はあんだろうがよ」
「……ああそうかい。勝手にしてくれ」
「勝手にさせてもらうぜ」
「……小生が泣いたところで、お前さんに何の迷惑がかかるわけでもないだろうに」
「何か言ったか?」
「つくづくお前さんは馬鹿みたいにお人好しだと言ったんだ」
「馬鹿みたいなお人好しはアンタだろ」

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11.30.23:15
伊達又ログ


「詩人は水面の月取ろうとして溺れて死ぬもんなんだろほら手伝ってやるから」
「ふざけんじゃねぇぞオマエが落ちろ氏ね」

「大体どこに月が出てるんですかぁ真っ暗なんですけどぉ!」
「心の目で見れば月くらい見えんだろfeelingで」
「ちょっともう黙れよぉってかオマエ沈めて水中の月にしてやる」
「んだよオレが水中の月になったら飛び込んで取りにくるってか、どういう新しい心中だよ冴えてんな」
「あぁはいはい何をどう解釈したらそういうことになるんですかねぇ~不思議ですねぇ~とりあえず今すぐ氏ね」


「ねぇ」
「……」
「ねぇ、ちょっと」
「……」
「伊達」
「……」
「伊達ぇ」
「なんだよ」
「どこ行くつもりだよぉ」
「世界を見に」
「なんでオレ様まで」
「自分で考えな」


「思ったんだけどよ」
「なにを」
「オレの世界にはアンタが絶対に必要だって言ったら、アンタそれでもオレを殺すか?」
「あぁ~……キモイんで氏んだらいいなぁって思いますかねぇ」


「なぁ、ほら」
「……」
「風が強いぜ」
「見りゃわかるんですけどぉ」
「飛ばしてやろうか、アンタをさ」
「オマエが飛べっての」
「飛ぶか、一緒に」
「やぁなこった」


「……羅衣今夜不須熏、ですかねぇ」
「わかるか、やっぱり」
「わかるか、じゃねぇですよぉ。ったく、どこでイタズラしてきたんですかぁ、ねぇ?」
「まあいいじゃねえか。美人の用意はねえが、酒ならあるぜ」
「オマエはまず風呂に入れ」

「秋墳鬼唱鮑家詩」
「……」
「恨血千年土中碧」
「……」
「……オマエ、なんで氏んでないの」
「……」
「ねぇ」
「……殺しゃいい」
「殺す」
「ああ、殺してみな」
「ねぇ」
「なんだ」
「ねぇ」
「……」
「ねぇ、なんで」
「……」
「なんでオマエ、死んでないの」
「アンタが殺しゃ死ぬさ」

「伊達」
「……」
「ねぇ」
「……」
「伊達政宗」
「……」
「ねぇ、聞こえてんでしょぉ」
「……」
「ねぇ」
「……」
「……」
「……」
「……」
「なんだ又兵衛」
「うるせぇ馬鹿氏ねこっち見んな」

「……」
「何やってんだ」
「オマエのせいで布団が金木犀くさいんですけどぉ」
「それがどうしたよ」
「落ち着いて眠れないんですけどぉ」
「なら自分の布団で寝ろよ」


「アンタはどうなろうがオレを覚えてるんだろうな」
「……」
「アンタがオレを壊そうとする限り、オレは何度でも新しくアンタを覚えるんだろうよ」
「……まず記憶する努力をしたらどうなんですかねぇ鳥頭」
「なんだ起きてたのかよ」
「オマエが耳元でうるせぇから目が覚めちゃったんですよぉ氏ね変態」


「ねぇ」
「……」
「おい」
「……」
「伊ぁ達ぇ」
「……」
「無視してんじゃねぇよぉ殺すぞ」
「……」
「……」
「いってぇえ!! 痛、痛いってのやめろ! ツボはやめろ!!」


「そういやアンタ、年いくつだよ」
「ん~?当ててみなぁ」
「15」
「……アタマ大丈夫ですかぁ?」
「50」
「殺すぞ」
「その間のどれか」
「オマエ当てる気ないでしょ、ねぇ」


「はぁ~……殺す」
「そうか」
「殺しますよぉ」
「OK」
「……」
「やってみな」
「……」
「Hey, 寝るんじぇねえ」

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11.17.01:18
14


「まずは件の斥候だが……こっち側が上杉領、その向こう側が武田領。奥州にいながらして西の情報を手に入れようとした場合、ここらを避けて通るのは自然なことだ。誰だって思いつく」
 指先で絵図を叩きながら、黒田が言う。
「関東の南には北条がいるが、ここを通るのはそんなに難しいことじゃあない。知っての通り、あそこは守りに徹しがちなきらいがある。他国の斥候が通ったのに気付いたところで、わざわざとっ捕まえて締め上げるようなことはせんだろう」
「そして実際、仁助と文次もそこを通ってきた」
 相槌を打つように言葉を挟みながら、片倉が絵図に印をつけていく。長政は、筆を持つ片倉の手元を凝視している。
「らしいな。そこでいくつか問題が出てくる。まず、斥候が襲われた場所だ。右目、どうなんだ」
「襲われた場所は、奴らもはっきりとは覚えてねえらしい。だが、相模から南武蔵へ抜けたあたりだということは間違いなさそうだ」
「とすると、まだ一応は北条領ということになるな?」
「そうだ。そして小田原周辺に豊臣が出張ってきているとなりゃあ、豊臣の仕業と疑いたくなる。だが、どうもそういうわけじゃねえらしいときた」
「お考えだったのですか……豊臣ではない、と」
 ついと視線を上げて、長政が問う。
「ああ。豊臣にしては妙だったというのが襲われた当人たちの言い分でな」
 小田原で見た豊臣の兵によく似てはいたが、どうも似ていたのは色だけだったらしいというのが、帰ってきた二人の斥候の意見だった。それを聞いた時から、片倉も政宗も下手人の正体は豊臣兵ではないとあたりをつけていたのだ。片倉がそれをかいつまんで説明してやると、長政が小首を傾げた。
「とすれば、誰が」
「それだ」
 待ってましたとばかりに、黒田が前のめりになった。
「襲われた斥候たちは、そのあと武蔵から上野に入る手前あたりで偶然通りかかった宇都宮兵に助けられてる。こいつは怪しいだろ」
「宇都宮の領国でしょう、上野は」
「そこだよ」
「どこですか」
「確かに上野は宇都宮領だ。国境の番をしていて見つけたというのならまだ話がわかるが、まだ武蔵を抜けないうちに偶然通りかかった兵がそれを見つけたっていうんだぞ。どんな幸運だ」
「……幸運扱いに、なるのでは……親父殿から見れば、おおよそのことは」
 いまこの時にそんなことを大真面目に言ってのけるこいつはもしかすると大物になるかもしれない、と片倉は咄嗟に口元を手で覆いながら思った。なんとか真面目な顔を崩さずに済んだが、渋い表情がどこかわざとらしい。黙って聞いていた政宗が、噴き出しかけたのを誤魔化すように咳払いをした。政宗様、と小さく声をかけると、それがかえってまずかったのか、主は必死に歯を食いしばって笑いを堪えはじめた。
「……とにかく! 偶然にしちゃ出来すぎだってことだよ小生が言いたいのは!」
 否定はしないんだな、と言ってしまいたい気持ちを抑えこみながら、片倉はこめかみに軽く触れた。主は結局我慢しきれなかったのか、くつくつと喉の奥で笑いながら小さく肩を震わせている。
「……OK……わかった……続けてくれ」
「顔が笑ってるぞ独眼竜」
「悪いね、笑い上戸なんだ。なぁ小十郎?」
「言葉を控えさせていただきます」
 長政の背をぽんぽん叩きながら嘯く主を渋い顔で見やり、片倉は答えた。黒田は唇を尖らせて小声でひとつふたつ悪態を吐いてから、また指で絵図を叩いた。
「今泉とかいう宇都宮兵は、八王子城からの帰りだと言ったそうだが、そんなものは方便だろうよ。大方、この辺りからもう斥候をこっそりつけてたんだろうさ。そして豊臣兵に化けた部下に襲わせ、偶然通りかかった体を装って助ける……」
「ま、化け切れてなかったみたいだけどな」
「そりゃお前さん、下手人の正体をうやむやにしとくためだろう。撹乱ってヤツだ」
「どうだかな」
「……ケチをつけたいなら、はっきり言ったらどうだ、右目」
 立て続けに話の腰を折られたのが気に食わなかったのか、やや苛ついた調子である。しかし、何かとすぐに拗ねる男の機嫌をいちいち伺ってやるほど片倉もお人好しではない。主が茶化すように口笛を吹いたのが聞こえたが、あえてそちらは見なかった。
「案外単純な話で、完璧に化けるだけの用意がなかったんじゃねえのか」
「ほう……なぜそう考える?」
「おそらく、豊臣が宇都宮に見切りをつけてるってのは事実だろう。正直な話、豊臣が宇都宮を飼殺し続けたところで、得られる益があるとは考えにくいからな」
 先祖代々の土地に深く根を下ろしている宇都宮は、豊臣の軍門に下ってもなお領国経営に関しては干渉を拒み、兵を動かしはするがその行動範囲を広げてまで助力しようとはしない。天下統一を目指す豊臣にとってはまぎれもなく、覇王を煩わせる「石」である。
「だとすれば、伊達と事を構えるのは宇都宮だけでいいと考えていてもおかしくない」
 覇道に転がる「石」も、拾って投げれば武器になる。単純な戦力差から考えても、伊達に対して宇都宮が圧倒的に不利なのは誰の目にも明らかである。しかし、宇都宮の領国付近まで伊達を誘い出してから叩くとなれば、話は変わってくる。隅々まで知り尽くした土地に陣を立て、相手を迎え撃つ態勢を完璧に作っておけるのであれば、勝利を収めるまでには至らずとも、少なからず伊達を消耗させることが出来る公算は大きい。
「宇都宮と豊臣が切れてねえとなれば、同盟を口実に伊達を宇都宮領まで呼び出して、背後の豊臣がそれを叩くのが一番手っ取り早い。だが……」
「豊臣に兵を出す気は毛頭ない」
「そういうことだ」
 消耗した伊達を豊臣の本隊が叩くことも出来ようが、豊臣はただ徒に力押しをするだけの軍ではない。西国を攻めている最中であり、小田原の役からさして時間も経っていない今、関東に多くの兵力を割きたくはないはずである。宇都宮だけが伊達とやりあうことになれば、豊臣は一兵も失わず、懐も痛まない。よしんば宇都宮が伊達に大敗したとしても、豊臣はその上を踏んで通り、奥州を攻略すればよいだけの話である。捨て石の宇都宮が伊達に勝とうが負けようが、豊臣にとっては都合がよいことになるのだ。
「斥候を襲った件も豊臣の指示かもしれねえが、土壇場で宇都宮を突き放すことを念頭に置いていたなら、手助けはしねえだろう。伊達に喧嘩を売ったのはあくまで宇都宮ということにしたいだろうからな。逆に宇都宮が豊臣を利用しようとした体に仕立て上げて、豊臣は知らぬ存ぜぬを通す……と考えりゃ、何かと理由をつけて、兵士の化け道具くらい自分で都合しろとでも言いそうじゃねえか」
「化け方の話から、よくもまあそこまで話が広がるもんだ」
「無論、推測の域は出ねえ」
「……お前さん、勘で生き残れる手合いだな。羨ましいこった」
 黒田は片倉をじっと見つめると、ぶっきらぼうに言った。
「どういう意味だ」
「にしても、そういうことを指図するのは……ま、一人しか思い浮かばんな」
 黒田は問いに答えず、首を鳴らして天井を見ながらうんざりしたように言った。黙殺された片倉は、不服そうに眉を顰めたものの追及はしなかった。
「大谷か」
「ああ。ついこの間まで小田原にいたからな、九割五分間違いない」
「アンタ、小田原で奴を見たのか」
 すっかり手持無沙汰にしていた政宗が口を挟んだ。
「小生が直接見たわけじゃないが、地上へ出たうちのが確かめた。それがどうかしたかね」
「例の今泉高光が、八王子で大谷に会ったと話していた。つっても、さっきの話を踏まえて考えりゃ、鵜呑みにするワケにもいかねぇんだけどよ」
「八王子? ……なるほどな、そういうことか」
 黒田は何か一人で納得するように呟いた。片倉は主の怪訝そうな顔を見やり、そして黒田を見た。この男、何か知っているのではないか。
「同じ陣営にいても腹が立つくらい口が達者だからな、刑部の野郎は。おまけに、他人が困ってるのを見るのが大好きときてるからタチが悪い。半兵衛の方が、まだ厭らしさがなかったな……ま、どうでもいいことだが。そうだ右目、お前さんにまだ言ってないことがあった」
 やや深くなった片倉の眉間の皺を見てか、黒田は強引に話を変えた。やはりか、とそのままの渋面で黒田を見やる。
「豊臣が小田原に兵を置いてるって話だけどな。ありゃ嘘だ」
「嘘だと? どういうことだ」
「その、いちいち怖い顔をする癖はどうにかした方がいいぞ」
 いちいちあからさまに拗ねて見せる男にそれは言われたくない、と考えはしたものの、反論するだけ不毛と悟った片倉は出かかった言葉を飲み込んだ。
「なに、お前さんの推量を裏付けてやろうってだけだ。豊臣は小田原に兵なんか置いちゃいない」
「だが、斥候は確かに見たと……」
「単純なtrickだったのさ」
 政宗がやおら立ち上がった。
「小十郎、ちょっとそれ脱げ」

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11.17.01:14
13


 執務室から戻ると、長政が腕相撲のことを訥々と話しているところだった。
「掴んでいる気がしない。掴んでいるはずなのに。……心持が、しました。そういう」
「2度目は大丈夫だったのか?」
「はい。なぜか」
 肩をすくめるようにして長政が言うと、政宗は小さく唸って腕を組んだ。
 飲みなおそう、と言った政宗は野外のことを心得のある家臣数名に任せ、黒田親子を屋敷の一室に招き入れていた。肴は、いっぱいに広げられた何枚もの絵図と、いま片倉が持ってきた帳簿だ。
 ちなみに黒田は鉄球付きで屋敷に上がるのを一応遠慮するような態度は見せたが、結局そのまま素知らぬ顔で上がり込んでいる。黒田が廊下を歩いて部屋に入り座るときまで延々聞こえてきた、不安を煽ってならない床の軋みのことは努めて忘れるようにしながら、片倉は帳簿を主に差し出した。
「お持ちしました」
「Thanks」
 帳簿を受け取ると、政宗は軽く目を通してからそれを脇に置いた。
「悪いが黒田、さっきの件を小十郎にも話してやってくれ」
「やれやれ、二度手間だな……まあいいさ」
 黒田は身を乗り出すようにして絵図を覗きこんだ。
「小生らがはじめに目指していたのは、上野と下野の国境だというのは言ったな」
「この辺りか?」
「そんなもんだ」
 つられるようにして身を乗り出しながら、片倉が絵図に印をつける。
「何でここを目指してたのかと言うとな、誰かさんがここで網を張ってるって話を仕入れたからさ」
「網だと?」
「独眼竜から聞いたが……お前さんとこの斥候がやられたんだって?」
「斥候を狙い撃ちにするための網、と言いてえのか?」
「そう渋い顔しなさんな。やられた場所と合わん……とお前さんは言いたいんだろうが、そうじゃあない」
 黒田はにやりと口角をつり上げた。
 片倉は眉を顰めたまま、ここまでの出来事をぐるりと頭の中に並べた。並べた一つ一つに、今まで気づかなかった繋がりはないか。はたと思い当たるまで、そう時間はかからなかった。
「……政宗様、まさか」
「That's right」
 大袈裟に腕を広げた政宗が、皮肉っぽく答えた。
「あいつら、伊達と豊臣を秤にかけやがった」
「使者に来たあの老将、食えぬ男とは思いましたが……これしき見抜けぬとは、不覚にございます」
「お前のせいじゃねえさ。オレも考えが甘かった」
「おい。勝手に納得してるところ悪いんだがな、小生はまだ話を終えてないんだぞ」
「Sorry, sorry. 続きを話してくれ」
 自分抜きで話が終わりかけているのを見て不貞腐れ始めた黒田に、あやすような調子で政宗が言った。
「続きも何も、事情は大体わかったんだろ」
「そう言うなよ。ほら、Juniorが蚊帳の外になっちまってるじゃねえか」
「ぼく」
 つくねんと座っていた長政が、突然の指名に慌てて居住まいを正す。
「名軍師の見立てってヤツを、倅にも聞かせてやっちゃどうだ」
「……そこまで言うなら、話してやるのもやぶさかじゃあないがね」
 やや離れて座っていた長政が黒田の隣に寄ってくると、機嫌を直したらしい黒田は大仰に胸を反らしてから場を見渡した。
「結論から言おう。宇都宮はまだ豊臣と通じてる。がっちりとな」

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10.25.04:38
12


長いので追記にまで続きます。




 前後不覚になるほどの深酒を最後にしたのは、いつのことだったろうか。
 むせてこぼした残りをそのままに、片倉の盃は先程から置かれっぱなしだ。見回せば宴もたけなわと言ったところである。喧騒は未だ絶えない。
「おっとっとっとぉ」
「さぁいったいった!」
 向こうでは伊達兵と黒田兵の飲み比べが始まったようだ。
「オメェら! 張るのは構やしねえが、醜態晒すんじゃねえぞ!」
「うぃーっす!!」
 肩越しに呼びかければ、陽気な声が返ってきた。やれやれと苦笑する。
 ぱりぱりという咀嚼音で、片倉は向かいに座る少年の存在を思い出した。本当に忘れていたわけではないが、政宗と黒田が席を立ってからこのかた、この少年は一言も発さずに黙々と飲み食いしていたものだから、そちらへ注意がいかなくなっていたのである。
 長政は漬物を食べていた。片倉の畑で採れたきゅうりを漬けたものだ。政宗に話していた通り、口を覆う面頬の下から箸を入れて食べている。
「……旨いか」
「……はい」
 急に話しかけられて驚いたのか、長政はしばし黒い瞳をぱちくりさせていたが、やがて頷いて見せた。
「おいしいです、とても」
「そうか。きゅうりなら、まだ漬けたのが残ってる。あとで分けてやるから、持っていきな」
 作ったものを喜ばれるのは、片倉とて悪い気はしない。
「漬物なら保存も利く」
「ありがとうございます」
 長政は小さくぺこりと頭を下げた。口元が隠れ表情を窺いにくいことを差し引いても、控えめな反応である。もしかすると人見知りなのかもしれない。
 不意に、背後からわっと歓声が上がった。何事かとそちらを見やる。飲み比べをしていた兵たちが、今度は腕相撲で力比べを始めたらしい。
「元気な奴らだ」
 口元に笑みを浮かべ呟き、長政の方に向きなおって、すこしばかりぎょっとした。大人しく座っていた長政が、膝立ちになっていた。前のめり気味に、向こうを凝視している。
「……気になるのか?」
「はいッ」
 先程までと打って変わって、元気良く返事。
「腕相撲、親父殿の他に負けたことありません、おれ」
「何だと」
 長政が急に活き活きとしはじめたことよりも、長政の言葉に片倉は驚いた。改めて見ても、長政は決して体格の良い方ではない。腕もまだまだこれから筋肉がつくのだと言わんばかりの細さである。あの鉄球を振り回せる剛腕の黒田に負けるというのはともかくとして、それ以外に負けたことがないとは、どういうことなのか。しかしそんな片倉をよそに、長政は続けた。
「勝てるんです、本当は親父殿にも。でも拗ねるから、おれが勝つと。だから、勝てないことにしてあるんです、おれは。ああでも、勝てないですよ、腕相撲以外なら本当に。だからすごいですよ、親父殿は」
 片倉は耳を疑った。黒田にも勝てるというのか。
 ここまできっぱりと言われてしまうと、訝る気持ち以上に、本当ならば見てみたい、という気持ちが強まった。
「……本当だろうな」
「はいッ」
「なら、見せてもらおうじゃねえか」
 回り始めた酔いが手伝ったか、にやり、と笑む。
 長政もまた、面頬の下で笑み返しただろうか。
「合点ッ!」




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