[PR]音楽だけではないレゲエの世界 なまもののさけび 忍者ブログ

なまもののさけび

とりあえずつらつらとかきつらねます

05.28.13:18
[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

  • 05/28/13:18

11.17.01:18
14


「まずは件の斥候だが……こっち側が上杉領、その向こう側が武田領。奥州にいながらして西の情報を手に入れようとした場合、ここらを避けて通るのは自然なことだ。誰だって思いつく」
 指先で絵図を叩きながら、黒田が言う。
「関東の南には北条がいるが、ここを通るのはそんなに難しいことじゃあない。知っての通り、あそこは守りに徹しがちなきらいがある。他国の斥候が通ったのに気付いたところで、わざわざとっ捕まえて締め上げるようなことはせんだろう」
「そして実際、仁助と文次もそこを通ってきた」
 相槌を打つように言葉を挟みながら、片倉が絵図に印をつけていく。長政は、筆を持つ片倉の手元を凝視している。
「らしいな。そこでいくつか問題が出てくる。まず、斥候が襲われた場所だ。右目、どうなんだ」
「襲われた場所は、奴らもはっきりとは覚えてねえらしい。だが、相模から南武蔵へ抜けたあたりだということは間違いなさそうだ」
「とすると、まだ一応は北条領ということになるな?」
「そうだ。そして小田原周辺に豊臣が出張ってきているとなりゃあ、豊臣の仕業と疑いたくなる。だが、どうもそういうわけじゃねえらしいときた」
「お考えだったのですか……豊臣ではない、と」
 ついと視線を上げて、長政が問う。
「ああ。豊臣にしては妙だったというのが襲われた当人たちの言い分でな」
 小田原で見た豊臣の兵によく似てはいたが、どうも似ていたのは色だけだったらしいというのが、帰ってきた二人の斥候の意見だった。それを聞いた時から、片倉も政宗も下手人の正体は豊臣兵ではないとあたりをつけていたのだ。片倉がそれをかいつまんで説明してやると、長政が小首を傾げた。
「とすれば、誰が」
「それだ」
 待ってましたとばかりに、黒田が前のめりになった。
「襲われた斥候たちは、そのあと武蔵から上野に入る手前あたりで偶然通りかかった宇都宮兵に助けられてる。こいつは怪しいだろ」
「宇都宮の領国でしょう、上野は」
「そこだよ」
「どこですか」
「確かに上野は宇都宮領だ。国境の番をしていて見つけたというのならまだ話がわかるが、まだ武蔵を抜けないうちに偶然通りかかった兵がそれを見つけたっていうんだぞ。どんな幸運だ」
「……幸運扱いに、なるのでは……親父殿から見れば、おおよそのことは」
 いまこの時にそんなことを大真面目に言ってのけるこいつはもしかすると大物になるかもしれない、と片倉は咄嗟に口元を手で覆いながら思った。なんとか真面目な顔を崩さずに済んだが、渋い表情がどこかわざとらしい。黙って聞いていた政宗が、噴き出しかけたのを誤魔化すように咳払いをした。政宗様、と小さく声をかけると、それがかえってまずかったのか、主は必死に歯を食いしばって笑いを堪えはじめた。
「……とにかく! 偶然にしちゃ出来すぎだってことだよ小生が言いたいのは!」
 否定はしないんだな、と言ってしまいたい気持ちを抑えこみながら、片倉はこめかみに軽く触れた。主は結局我慢しきれなかったのか、くつくつと喉の奥で笑いながら小さく肩を震わせている。
「……OK……わかった……続けてくれ」
「顔が笑ってるぞ独眼竜」
「悪いね、笑い上戸なんだ。なぁ小十郎?」
「言葉を控えさせていただきます」
 長政の背をぽんぽん叩きながら嘯く主を渋い顔で見やり、片倉は答えた。黒田は唇を尖らせて小声でひとつふたつ悪態を吐いてから、また指で絵図を叩いた。
「今泉とかいう宇都宮兵は、八王子城からの帰りだと言ったそうだが、そんなものは方便だろうよ。大方、この辺りからもう斥候をこっそりつけてたんだろうさ。そして豊臣兵に化けた部下に襲わせ、偶然通りかかった体を装って助ける……」
「ま、化け切れてなかったみたいだけどな」
「そりゃお前さん、下手人の正体をうやむやにしとくためだろう。撹乱ってヤツだ」
「どうだかな」
「……ケチをつけたいなら、はっきり言ったらどうだ、右目」
 立て続けに話の腰を折られたのが気に食わなかったのか、やや苛ついた調子である。しかし、何かとすぐに拗ねる男の機嫌をいちいち伺ってやるほど片倉もお人好しではない。主が茶化すように口笛を吹いたのが聞こえたが、あえてそちらは見なかった。
「案外単純な話で、完璧に化けるだけの用意がなかったんじゃねえのか」
「ほう……なぜそう考える?」
「おそらく、豊臣が宇都宮に見切りをつけてるってのは事実だろう。正直な話、豊臣が宇都宮を飼殺し続けたところで、得られる益があるとは考えにくいからな」
 先祖代々の土地に深く根を下ろしている宇都宮は、豊臣の軍門に下ってもなお領国経営に関しては干渉を拒み、兵を動かしはするがその行動範囲を広げてまで助力しようとはしない。天下統一を目指す豊臣にとってはまぎれもなく、覇王を煩わせる「石」である。
「だとすれば、伊達と事を構えるのは宇都宮だけでいいと考えていてもおかしくない」
 覇道に転がる「石」も、拾って投げれば武器になる。単純な戦力差から考えても、伊達に対して宇都宮が圧倒的に不利なのは誰の目にも明らかである。しかし、宇都宮の領国付近まで伊達を誘い出してから叩くとなれば、話は変わってくる。隅々まで知り尽くした土地に陣を立て、相手を迎え撃つ態勢を完璧に作っておけるのであれば、勝利を収めるまでには至らずとも、少なからず伊達を消耗させることが出来る公算は大きい。
「宇都宮と豊臣が切れてねえとなれば、同盟を口実に伊達を宇都宮領まで呼び出して、背後の豊臣がそれを叩くのが一番手っ取り早い。だが……」
「豊臣に兵を出す気は毛頭ない」
「そういうことだ」
 消耗した伊達を豊臣の本隊が叩くことも出来ようが、豊臣はただ徒に力押しをするだけの軍ではない。西国を攻めている最中であり、小田原の役からさして時間も経っていない今、関東に多くの兵力を割きたくはないはずである。宇都宮だけが伊達とやりあうことになれば、豊臣は一兵も失わず、懐も痛まない。よしんば宇都宮が伊達に大敗したとしても、豊臣はその上を踏んで通り、奥州を攻略すればよいだけの話である。捨て石の宇都宮が伊達に勝とうが負けようが、豊臣にとっては都合がよいことになるのだ。
「斥候を襲った件も豊臣の指示かもしれねえが、土壇場で宇都宮を突き放すことを念頭に置いていたなら、手助けはしねえだろう。伊達に喧嘩を売ったのはあくまで宇都宮ということにしたいだろうからな。逆に宇都宮が豊臣を利用しようとした体に仕立て上げて、豊臣は知らぬ存ぜぬを通す……と考えりゃ、何かと理由をつけて、兵士の化け道具くらい自分で都合しろとでも言いそうじゃねえか」
「化け方の話から、よくもまあそこまで話が広がるもんだ」
「無論、推測の域は出ねえ」
「……お前さん、勘で生き残れる手合いだな。羨ましいこった」
 黒田は片倉をじっと見つめると、ぶっきらぼうに言った。
「どういう意味だ」
「にしても、そういうことを指図するのは……ま、一人しか思い浮かばんな」
 黒田は問いに答えず、首を鳴らして天井を見ながらうんざりしたように言った。黙殺された片倉は、不服そうに眉を顰めたものの追及はしなかった。
「大谷か」
「ああ。ついこの間まで小田原にいたからな、九割五分間違いない」
「アンタ、小田原で奴を見たのか」
 すっかり手持無沙汰にしていた政宗が口を挟んだ。
「小生が直接見たわけじゃないが、地上へ出たうちのが確かめた。それがどうかしたかね」
「例の今泉高光が、八王子で大谷に会ったと話していた。つっても、さっきの話を踏まえて考えりゃ、鵜呑みにするワケにもいかねぇんだけどよ」
「八王子? ……なるほどな、そういうことか」
 黒田は何か一人で納得するように呟いた。片倉は主の怪訝そうな顔を見やり、そして黒田を見た。この男、何か知っているのではないか。
「同じ陣営にいても腹が立つくらい口が達者だからな、刑部の野郎は。おまけに、他人が困ってるのを見るのが大好きときてるからタチが悪い。半兵衛の方が、まだ厭らしさがなかったな……ま、どうでもいいことだが。そうだ右目、お前さんにまだ言ってないことがあった」
 やや深くなった片倉の眉間の皺を見てか、黒田は強引に話を変えた。やはりか、とそのままの渋面で黒田を見やる。
「豊臣が小田原に兵を置いてるって話だけどな。ありゃ嘘だ」
「嘘だと? どういうことだ」
「その、いちいち怖い顔をする癖はどうにかした方がいいぞ」
 いちいちあからさまに拗ねて見せる男にそれは言われたくない、と考えはしたものの、反論するだけ不毛と悟った片倉は出かかった言葉を飲み込んだ。
「なに、お前さんの推量を裏付けてやろうってだけだ。豊臣は小田原に兵なんか置いちゃいない」
「だが、斥候は確かに見たと……」
「単純なtrickだったのさ」
 政宗がやおら立ち上がった。
「小十郎、ちょっとそれ脱げ」

拍手[0回]

PR
URL
FONT COLOR
COMMENT
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
PASS

TRACK BACK

トラックバックURLはこちら