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なまもののさけび

とりあえずつらつらとかきつらねます

05.31.13:07
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  • 05/31/13:07

09.25.02:36
唐突に書き始めた話①


 腰を下ろした畔の色づきが、この幾日かでぐんと広がったように思える。
 ふくよかに実り重たげに頭を垂れている黄金の稲穂も、いまは沈みかけた西日の色に染まっているが、畔にすっと立った彼岸花の赤は、しみわたるような夕焼けの赤よりもなお赤い。燃えるようなそれからすいと目を滑らせつつ、片倉小十郎は立ち上がって伸びをすると、刈り入れを控え秋風にさらさらと鳴る田を見渡した。今年は稲の育ちが良い。農民たちの努力はもちろんのこと、天候にも恵まれた。皆、刈り入れを心待ちにしているだろう。泥田に足を浸し、草いきれの匂いを吸い込んできた片倉も、その心持はおなじである。
 充足一歩手前の感慨に耽るその耳に、風に乗って、土を勢い良く蹴る音が飛び込んできた。口元を引き結んで見返る。武人の顔に戻っていた。
「どうした」
「至急戻られよとの仰せです。馬を」

 常の所用で、田畑に出ている片倉が呼び戻されることはないに等しい。野良仕事の途中で声がかかったならば、すなわち火急ということになる。手早く身支度を済ませ参じた居室で、主は書状と思しき紙切れをやや不機嫌そうに、しかしどことなく楽しそうに、眺めていた。実のところ、不機嫌そうな表情の方がつくり顔であろう。証拠に、片倉が顔を出したのを見るや、書状と顰め面を見比べてにやにやしだす始末である。
「いかがされましたか」
 主といえど呼びつけておいてその態度は何事かと顔で訴えてはみるが、主・伊達政宗は一向に意に介す様子もなく、持っていた書状を片倉の前に突きだした。
「豊臣はまだお前に未練があるらしいな」
 片倉の表情がますます険しくなったのを見て、政宗は小さく鼻を鳴らした。
「モテる男はつらいな、小十郎」
「何を申されます」
「Jokeだ。引く手数多の右目を持って鼻が高いぜ」
「政宗様!」
「そう怖い顔すんなよ。何もお前を茶化したくて呼びつけたわけじゃねえ」
「でなければ困ります」
 軽く眉間を押さえ、書状に視線を落とす。兵卒と部将、軍師を差し出し従えば土地はそのままにしておいてやる、逆らうなら力づくで接収する、書状の内容をかいつまめばこのようなものであった。
「わざわざ軍師と言い変えて、その実、名指ししてやがるのが気に食わねえな」
 要は片倉を戦力として豊臣に取り込もうというのだろう。片倉もこの件には心当たりがありすぎるほどにある。だからこそ、書状に目を通してみて僅かばかりの違和感を覚えずにいられなかった。
「政宗様」
「何だ」
「この書状の差出人、まこと豊臣だと思われますか」
 政宗の蒼い視線が、「右目」の瞳に注がれた。謀書ではないか。片倉はそう言ったのである。
「なぜそう思った」
「ひとつは、時期」
 言って、西日の燃え残る外へ目をやる。
「書状を寄こした以上、欲するのは攻め込む口実のはず。仕掛けてくるのはこちらの返答を待ってからということになります。いまは丁度刈り入れ直前……返事を引き延ばして刈り入れを終わらせ、こちらの兵糧を整えることも容易でしょう。相手に準備の時間を与える……蓄え多しと喧伝される豊臣とはいえ、そのような愚を犯すとは思えません。時期と申し上げたのはそういった意味です」
「成程な」
「そしてもうひとつですが……あの男が時間をかけて回りくどく、書状など出すものでしょうか」
 時の浪費を極度に嫌う豊臣の軍師を思い出しながら、政宗は独眼を伏せしばし黙した。片倉の言はもっともである。しかしそれならば、書状を偽造した何者かが存在するはずだ。それは何者なのか。
「……探らせるか」
「御意」



続きます。

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