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なまもののさけび

とりあえずつらつらとかきつらねます

05.31.13:07
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  • 05/31/13:07

09.26.00:18
唐突に書き始めた話②


 戸を開けると、煎じたばかりらしい生薬の匂いが鼻をついた。
 大坂方面への斥候を手配した足で片倉が向かったのは、城下に設けられた兵卒用の療養所である。戦に出て負傷したり、病にかかったりした兵のうち、特に医者がついていなければならぬようになった者を、一時的に収容しておける長屋のようなものがここにあった。他の勢力を柔軟に吸収し拡大すること著しい昨今の伊達軍である。兵士の全体数が増えれば、程度はどうあれ患者も増える。療養所詰めの医者たちは日々忙しなく過ごしていた。
 いまここに入所している兵の多くは、元から伊達軍にいたのではない。伊達に吸収された勢力の兵たちである。直近の戦で引き入れた兵は、守るべき所領を持たぬものばかりであった。豊臣が台頭して以降、土地と根深く結びついた武士が多い関東以北にも、土地を持たぬ勢力が増えたと片倉も聞いてはいたが、まともにぶつかりあったのは先日が初めてである。聞けば、俸禄次第でどこの軍にも属す傭兵紛いのくらしで、糊口をしのいでいたそうだ。自然、日ごろの健康状態が良いと言えぬ者も少なくない。ましてや、伊達と一戦交えた上で吸収されたのである。重軽傷を問わず傷を負った兵の数は相当なものであった。政宗から直々に新入りの目付けを任されている立場として、近頃の片倉は田畑通いにも劣らぬ頻度で、この療養所に足を運んでいた。
 部屋の中では、医者が患者に湿布をしてやっているところだった。
「これはこれは。小十郎様」
「具合はどうだ」
「顎の完治まではいましばらくかかりましょうが、他はさして深い傷でもなし、順調に回復しています。元々芯のお強い方なのでしょう」
 手早く処置を終えると、医者は一礼して静かに退出した。
 片倉はおもむろに座し、布団に寝かされている男を注視した。顔の大部分が包帯で覆われ、目以外の部品がほとんど見えない。
「まだ痛むか」
 男は僅かに首を動かして片倉を見返し、黙したままゆっくりとまばたきを一つした。無理もない。なにしろ顎が砕けているのだ。ゆえに本人の口からはまだ一切の言葉を聞いていないが、他の兵からいくらかこの男の身の上を聞いていた。
 名は片岡八郎、豊前の生まれだという。戦の中での覚えはないが、担ぎ込まれてきたとき身に着けていた陣羽織や鎧、そして配下と思しき足軽たちの気遣わしげな表情を思い出すにつけ、いっぱしの部将であったに違いない。
 伊達に将として身を置くか、戦場から退き城下で暮らすか。
 八郎は声こそ発せないが、目と、比較的無事な首から下をある程度動かしての意思疎通ができる。顎が砕ける重傷を負いながらも、八郎は将であり続けることを選んだ。将として遇する以上、回復し次第、伊達の部将として配下の兵をまとめてもらわねばならない。だからこそ、こうして部屋一つを与え医者をつけているのだ。
「じっくり養生しろよ」
 長居をする用件でもない。片倉は八郎を一瞥し、部屋を後にした。


 面倒事は続け様に起こるからこそ面倒事なのかもしれない。足早に中庭へと進む。
「政宗様」
 木刀を振っていた主が振り向いた。
「どうした小十郎」
「下野の宇都宮から使者が参りました。政宗様にお目通り願いたいとの由」
「宇都宮?」
 政宗は訝しげに目を細めた。宇都宮と言えば、両毛と北武蔵を領する東国の雄である。佐竹や上杉と結んで北条を牽制しながら、東北方面への睨みを利かせてきた由緒の古い一族だ。他国へ派手に攻め込む戦はしないが、先の小田原攻めでは佐竹勢と共に豊臣に与していたはずで、政宗にも覚えがあった。
「何しに来やがった、宇都宮は」
羽織に袖を通しながら、ぶっきらぼうに問う。
「わかりません。しかし、何やらただならぬ様子で」

 待ちかまえていた使者は、政宗の想像とはだいぶかけ離れていたらしい。表情は抑えているものの、ぎょっとしたような空気を微かに片倉は感じ取った。思わず眉根を寄せる。相手に気取られていないらしいことが幸いだ。
「此度はお目通り叶いましたこと、誠に有難う存じます」
 政宗が座すと、使者がよく通る声で言った。
「畏まらなくてもいいぜ。堅苦しいのは嫌いでね」
 いつもの調子で答えた政宗を一瞥してから、片倉は使者の姿を改めてじっくりと眺めた。
 精悍な顔つきをした男だった。老人と言っても差し支えない年ではあろうが、容易にそうとは言わせない凄味がある。静かに首筋を見下ろす、軒下のつららのような男。
「宇都宮家筆頭家老、芳賀高定にございます」
 芳賀高定。
 片倉はこの名に聞き覚えがあった。身内同士の小競り合いが絶えなかったかつての下野国内において、先代の死を契機に居城を追われた幼少の宇都宮家嫡男を支え、その智謀を以て主の障壁たる者たちを葬り去ること度々、そしてついには宇都宮城奪還を果たした、白虎の老獪なる腹心。高定がいなければ、宇都宮家は保てないとまで揶揄されている程である。
 そんな男が敵地とも言える奥州へ乗り込んできたのだから、やはりただごとではない。
「用件を聞こうか。言ってみな」




続きます。
ちなみに今後も捏造モブがバンバン出てくるのでご了承ください。

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