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なまもののさけび

とりあえずつらつらとかきつらねます

05.30.01:46
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  • 05/30/01:46

01.28.01:19
16


「これは……」
 横から覗きこんでいた片倉は。思わず目を見張った。包みに入っていたのは幾枚もの書状である。差出人と宛て名の組み合わせは様々であるが、どれも名の知れた武将のものだ。しかし読んでみればみるほど、それらの内容には違和感があった。書状は軍資金の都合を依頼するものや出兵の要請、敵対勢力への言いがかりじみた挑発など、全て軍事に関わるもので、確かにこのような書状が本当に出されてもおかしくはないという説得力はあった。だが、あまりに出来過ぎているもの、あからさますぎるものが多いのだ。それは、豊臣から伊達へという体で書かれたあの書状によく似ていた。
「見てくれはそれらしいが……偽物だな、こいつは」
 どこか愉快そうに一枚一枚を眺めている主も、無茶苦茶だな、などと呟いているところをみると、どうやら同じことを考えているらしい。幸いというべきか、差出人に伊達関係者の名前は見当たらず、片倉はひっそりと胸を撫で下ろした。
「Amazing……どこで手に入れやがったんだ?」
「なに、拾いものだよ」
「拾いものだァ? No kidding! こんなモン落とすマヌケがそう何人もいてたまるかよ」
「言葉のあやだよ。額面どおり受け取らんでくれ。こいつを手に入れたのは穴道の中だ」
 黒田軍はいま、日ノ本中を「穴道」と呼ばれる地下道で結び縦横無尽に移動するという、特殊すぎる行軍形態を取っている。地上に通じる出入り口も各地にあるが、地下に慣れない者が備えもなしに立ち入ればたちまち迷い、二度と日を拝むことはできまい。
「小生らの穴道は、実のところ全体がどれくらいの規模になっているのか、もう把握のしようがない。地図もないからな。定期的に点検はするんだが、あまり使わない道なんかは放っておくことも多い。大体そのうち勝手に崩れるんでね」
「地図くらい作っておけよ……」
「うちのはみんな地下に慣れてる。道を覚えるくらい、息をするように出来るもんだ。それに、もし地図が他人の手に渡ったら困るだろう? だったら初めからない方がいいってことだ!」
「本当か?」
「お、おう」
 政宗が問うと、黒田は一瞬狼狽した。蒼い視線が注がれる。前髪に隠れた目が逸らされたのを片倉は何となく感じ取った。
「……忘れてただけじゃなくてか?」
 沈黙。
「……穴掘るのに忙しかったんだよ。悪いか」
「いや、悪いとは言わねえよ。続けてくれ。よろしいですね政宗様」
「……OK. Go on」
 主の言う通り、道を作っておきながら地図を作り忘れるなどうっかりもいいところであるが、これ以上の指摘をすればまた拗ねて面倒なことになるなと察した片倉は、主に目配せしながら話の行き先を押し戻した。
「まさか書状が穴道に落ちてたわけでもねえだろう。どういう経緯で手に入れた?」
「事の初めから話すとだな、しばらく前から穴道の中で幽霊を見たという奴がちらほら出ていた」
「Ghostと書状と、どういう関係があるんだよ」
「まあ聞け。穴道での作業は……」
 黒田いわく。
 穴道での作業は、当然ながら落盤事故や機巧事故などの危険を伴う。しかし黒田の悪運の強さが影響しているのか、事故は残念ながらかなり頻繁に起こるものの、幸いにして作業中に死者が出たことはないらしい。穴道の中で見かける屍と言えば大体が動物のもので、その他は誤って穴道に迷い込んだと思われる行き倒れの慣れの果てと、ごく稀に遭遇する程度だという。
「ところがな。行き倒れや、落盤に巻き込まれて死んだらしい屍を見ることが増えた。思い返してみれば、幽霊の噂が流れ始めた頃からだ。戦場で見る屍に比べれば屁でもない数だが、それにしたって急に増えるのは妙だろ?」
「Hum. アンタの見立ては?」
「小生らの他に、誰かがわざわざ穴道を使ってるとしか思えん」
 穴道に迷い込む者が突然増える理由は、片倉も一応考えてはみたが思いつかなかった。自ら入ってくる者が増え、その結果として迷って行き倒れる者が増えたとするのが無理のない理屈であろう。しかし疑問は残る。
「地図も持たずに、そんな危ねえ橋を渡るもんか?」
「察しがいいじゃないか右目。小生もそう考えてな、いくつかの地点を見張らせてみた。当てずっぽうじゃないぞ、出入り口の位置や地勢を考えた上で弾きだした場所だ。そしたらまあ、幽霊を一人捕まえることに成功してな!」
 待ち伏せが徒労に終わらなかったことが余程嬉しかったと見える。行動が裏目に出ることにかけては天才的ともいえる黒田にしては、一人捕まえられただけでも驚異的な幸運に違いない。
「何か吐いたか?」
「逃げられないとわかったら、舌を噛んで死んだよ。秘密を守ろうと思ったんだろう」
「……愚かなことを」
 死ぬ覚悟を決められるのと、何のためらいもなく死ねるのとでは、全く違う。死ねば済むなどということは、どのような状況下においてもあり得ない。少なくとも片倉はそう信じている。主も、そして伊達の兵たちも同じであろう。見も知らぬ、そして既にこの世にいない者の話ではあるが、片倉は思わず眉を顰めた。
「ま、肝心の持ち物を残したままなのがお粗末なところだ。お陰で持ち物をゆっくり検めることができたがね。まったく、ああいう潔さは身につけるだけ損だな」
 表情も変えずにさらりと評する黒田を、片倉は横目で見やった。この男は確かに豊臣の軍師だったのだ。割り切った物言いをされると、改めてそう思わずにいられない。
「で、出てきたのがその紙束。それから、穴道の簡単な地図だ」
「That's curious! 地図は作ってないと言ったじゃねえか」
「小生たちはな。つまり幽霊製だ……死人を出しながらも、道を調べて作ったんだろうよ」
「なら、今後はそれを使えるじゃねえか。よかったな」
「はははは……いや、それがなぁ……」
 引きつった笑いを浮かべながら天井を見る黒田。隣で長政が溜息をついた。
「……なくしたんです、ここに来る前。吹き飛んでしまって……作業中に、ものの弾みが連なって。埋まってるでしょうね、ぼろぼろになって、どこかに。穴道の」
 妙に穏やかな表情の長政が、片倉を見た。父親にかける言葉が見つからない、と目が言っている。片倉は首を横に振った。もう何も言うまい。

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