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なまもののさけび

とりあえずつらつらとかきつらねます

05.30.01:46
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  • 05/30/01:46

01.28.01:27
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「いいんだよ、元々なかったものなんだ! 零だったものが一になってまた零に戻っただけだからな! つまりとんとんで損害はナシってことだ!」
 己を鼓舞するかのように、黒田が明るい調子で言った。他人事ながら視界がにじむような気分になり、片倉は軽く目頭を押さえた。ここまでくると、黒田の心の逞しさが恐ろしいとすら思えてくる。そのままちらりと主の方を見やると、手で顔を覆っていた。肩が震えている。
「……政宗様」
「……っ」
「あっ、笑ってやがるなお前さん!」
「そ、そういうつもりじゃ……っくく」
「ああそうさ、どうせ不運さ小生は! 笑いたきゃ笑え!」
 天井を仰ぎ、いつも通りのやけくそ気味な語調で言い放つと、黒田はそっぽを向いてしまった。政宗は顔を覆ったままだ。長政の困ったような目が片倉を見た。
「……おい、書状の話はどうなった」
「ああ、そう、その話だな。それを話さなくちゃいかん」
 片倉が凄むように低く発すると、黒田が慌てたように場を見回した。政宗はいつの間にやら、何事もなかったかのように澄まして腕を組んでいる。
「偽の書状を持ってあんなところに入ってくる理由を考えたら、幽霊の目的はなんとなくわかるだろ」
 片倉は書状の束に目を落とした。これらが黒田の手に渡ることなく、そのまま届けられていたならば。書状が偽物と気付いた伊達でさえ、その後の行動を利用されたのだ。書状の内容を額面通りに受け取ったならば、複数の勢力間で揉め事が起きるのは間違いない。消えかけていた火種が再び燃え上がるようなことも、十分に考えられる。しばし黙考した後、政宗が口を開いた。
「どう思う、小十郎?」
「情報網をかき乱すことで、各地で戦を起こさせることが目的ではないでしょうか」
「オレも同意見だ。乱世を収めるどころか、heat upさせたい奴らがいるってことだろうぜ」
 澄まし顔のまま、政宗が言う。呆れたような態度を取ってみせてはいるが、心中穏やかではあるまい。
「それ以外ないだろう、やっぱり。だがな、ここが重要なんだが……小生が思うに、こいつは豊臣の仕業じゃあないぞ」
「Why? あれだけ方々に戦火を広げてるじゃねえか」
「豊臣が目指しているのは天下統一だ。他勢力同士の小競り合いなんか、いくら起こしても得しないどころか、かえって邪魔になるくらいだと思うがね」
 天下統一、を強調しながら黒田が言うと、政宗は涼しい顔で口笛を吹き、何事か短く呟きながら数度小さく頷いた。考えてみれば確かにその通りである。各地で戦線を展開している豊臣だが、それはあくまで日ノ本全土を己の支配下に置くための戦である。豊臣に与しているわけでもない他勢力が、あちこちで活発に戦をし始めたならば、それを片っ端から押し潰しにかからねばならない。策謀を巡らせてまで益のないことをする豊臣ではない。
「幽霊の親玉はまだ闇の中か……」
「そこで、だ」
 顎に手を当てつつ片倉が呟くと、待ちかまえていたように黒田が言った。
「宇都宮領の話に戻る。その偽書状の中身と、穴道を移動しながら各地で得た情報とを突き合わせてみたんだが、しばらくどことも戦をする予定のない勢力ってのがいくつか浮かんできた。宇都宮もそのうちの一つだ」
「それだけで宇都宮に目星をつけたってのか?」
「気になる噂があったんだよ。どうも最近、あそこは傭兵を雇ってるらしい」
「傭兵だと」
 戦乱の世である。伊達や豊臣のように民の上に立ち国を経営しながら戦をする武将とは異なり、戦をすることのみに特化した集団というものが、この日ノ本にはいくつか存在する。有名なのは、銃火器の扱いに長け最強の傭兵集団と名高い紀州の雑賀衆で、彼らの頭領とは政宗も馴染みであった。ゆえに傭兵、と聞いて真っ先に思い出すのは彼らだ。
「雑賀じゃない。名前が流れてこないところをみると、新興の集団だろう」
 伊達と雑賀の繋がりは黒田も承知していると見え、政宗が二言目を発する前にそうつけたした。
「そいつらが幽霊の親玉だと、小生はあたりをつけてるわけだ。傭兵稼業は、戦がなけりゃ商売上がったりだろう?」
 本拠地の雑賀荘に拠り、頭領を頂点とした組織が出来上がっている雑賀衆の場合は、戦以外にも交易や輸送を担うことによって収入を得ている。たとえ乱世が幕を閉じたとしても、自立していくことは十分できるだろう。しかし土地を持たない集団や小規模な集団の場合は、純粋に戦働きだけを収入源としていることも少なくない。
「名前も知れねえような集まりに、そんなに頭の回る奴がいるモンなのか?」
「穴道を使うなんて発想も、城詰めの兵にはそうそう考えつかんだろうが、戦のために生きてるような連中だったら考えついてもおかしくない。落ち目の宇都宮を唆して、片棒を担がせてるのかもしれん」
 利用するため雇った傭兵に、逆に利用されているのではないか。契約相手を端から使用するつもりで仕事を請け負うなど、誇りを持って戦場に臨み契約を忠実に履行する雑賀衆であればいざ知らず、得体の知れない新興の傭兵集団となれば、ありえないと一笑に付すことはできない。
「ま、なんだ。これだけ情報に踊らされておいてから、小生の言うことを全部信用しろという方が無理な注文だろうがね」
「It is only half true……予想が当たってたら驚きだぜ」
 話半分、と政宗が茶化したが、その目はもう笑っていない。
「それでもいまのオレは、アンタの言うことを信用するしかねえ……わかってんだろ」
 蒼く鋭い視線が黒田に注がれる。片倉は主の瞳に、凪のような静けさを見た。
「黒田、アンタは幽霊に会ってどうするつもりだ?」
「通行料くらいは取ってやらんとな……というのは冗談だ。穴道を使ってそんな面白いことをやってる奴の顔を、拝んでみたくてね」
 嘘とも真ともつかない口調で答える。この期に及んで腹を見せないつもりらしい。政宗は挑発的に笑んだ。
「OK. 日ノ本を導くのが竜王の責務だ。迷ってる奴がいるなら、導いてやらなきゃならねえ。ついでに、はた迷惑なghostも迷わず成仏できるように導いてやるさ」
「政宗様、それでは」
「当面の敵は豊臣じゃねえ。『軍師』の見立てが正しけりゃ、じきに向こうからお呼びがかかるはずだろ? せいぜい賑やかに馳せ参じてやろうじゃねえか」
 さざなみ立つ水面のごとく、蒼がざわめき煌めく。
「またとないpartyになりそうだ」
 渇いた唇を舐め、竜が笑った。

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