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なまもののさけび

とりあえずつらつらとかきつらねます

05.29.03:57
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  • 05/29/03:57

10.11.13:45


 やはり喋りすぎだ、と今頃になって己を叱責しても遅いのだが、そうせずにはおれない。片倉は複雑な面持ちで、足早に城へと向かった。既に日が落ちかかっていることが、今はありがたい。
「小十郎様ーッ!!」
 落ち着きなく頬骨のあたりを揉んでいると、右前方の薄暗がりから兵が走ってくるのが見えた。
「どうした!」
 きっ、と眉尻を上げて吠える。先程までの様子が嘘のようだ。
「や、山の方に変なモンが……」
「変なモン? 化物でも出たって言うんじゃねえだろうな」
「ひょっとすると、化物かもしれねえっす……」
「あぁ?」
「と、とにかく来てくだせぇ! 筆頭もあっちへ向かってます!」

 タケノコの化物、という言葉が脳裏をよぎった。てっぺんを見続けていたら首を痛めそうだ。
「見つけた農民の話じゃ、山ん中から突然生えてきたらしいんです」
 少し下がったところで同じように見上げながら、兵の一人がった。片倉は眉根を寄せながら、そびえ立つ泥まみれのそれを上から下まで眺めた。煮るにしろ炊くにしろ、奥州全土の鍋釜をかき集めても足りないかもしれない。
「……小十郎」
 腕組みをしながら仁王立ちでてっぺんを見上げる政宗の声が、心なしかげんなりしている。
「……はっ」
「こう、でかいモンが生えてくるってのは、何か思い出さねえか」
「……」
「タケノコ以外でな」
 目を逸らす。顔に出ていたのだろうか。
「オレは、見たことあるぜ」
 お前もだ、とこちらを見る政宗の目が言う。片倉は、巨大な何かが土の下から生えてくる様子を思い浮かべた。地を揺るがし、轟音と共に地下からせり上がってくる、巨大な何か。土中に潜み、一瞬にして眼前に現れる――
「……一夜城」
「That's right!」
 ぐわ、と地が鳴った。
「下がれ!」
 政宗が吠え、抜刀しつつ跳び退る。片倉も抜き、構えた。先程まで見当違いにも程がある考えを頭の中で繰り広げていた自分を殴りたい。回転しながらせり上がってくるその姿、片倉は確かに見覚えがあった。まさかそれを再び目にする日が来るとは。兵を満載し、軍師の指示一つで姿を現す可動式砦、一夜城!
「またテメェの差し金か……竹中ァ!」
「モテる男はつらいなァ小十郎!」
「その冗談はおやめくださいと申し上げ……ッ!?」
 言いかかった言葉が途切れる。
 眼前の「一夜城」が突如その回転を止め、すぽん、と音でも立てそうなほどに容易く、そして唐突に、地中へ吸い込まれて見えなくなった。
 静寂。
「な……」
「……What?」
 しかし直後、足元からびりびりと伝わる揺れ。
 真下!
「政宗様!」
 前方見据えつつ滑るように後方跳躍、退避。
「Don't sweat it! Ha-ha!」
 大きく跳んだ主の声が、上方から降ってくる。勢い殺さず着地、低く構えた政宗の口元が歪む。
「Sorry, 小十郎。どうやら見立て違いだ!」
 轟音。
 地を割り姿を現した巨体は、先程まで地上に突き出していた鼻先をこちらに向けながら、帯で繋がれた駆動輪をぎゅいぎゅいと鳴らして後退した。円錐を引き延ばしたような鼻先が、物騒な音を立てながら回転する。内部に兵を収容し輸送するのではなく、あくまで地中を掘り進むための機構か、と片倉は冷静に判じた。
「……政宗様。小十郎は、これとよく似たものを見た覚えがございます」
「Gentlemanが見せびらかしてたやつだろ? ……けど、あっちは回る角が2本ついてたぜ」
「確かに形は異なりますが、基本的な構造は同じではないかと」
「何にせよ、このお客さんにはお引き取り願うしか……ん?」
 何かに気付いた政宗が、目を細める。視線の先、機体側面に描かれている大きな藤巴が、みしりと音を立てて回ったかと思うと、ぽっかり口を開けた。丸い扉になっていたらしい。
「……黙って聞いてりゃあ、一番間違えられたくない奴と間違えやがって……」
 体を捻るようにして穴から這い出しながら、忌々しげに呟く。
「……んっ? あれ? おい、後ろが引っかかってるじゃないか! ちょっと押してくれ、お前さんた……うわあ!」
 内側から急に押されたらしい。
 見事に顔面から着地した男と、その隣に着地した黒い鉄球。
「……Hey. なんでアンタがここにいるんだ?」
 溜息をつきたいのを我慢している、といった面持ちで、政宗が問う。
「……そいつはこっちの台詞だよ。なんだ、ここはお前さんとこの領地か?」
 のそりと起き上がり鉄球に腰掛けると、黒田官兵衛は気だるげに首を鳴らした。
「人んちの領内に侵入しといて、迷子のフリか?」
「なにせ試験走行中でね。もう少し手前で地上に出られる筈だったんだが、行き過ぎた」
 悪びれる様子もなく、黒田が言う。
「おまけに、どこが故障したわけでもないのに動力機構が急停止してな。角が地面から飛び出たまま、前にも後ろにも動かなくなったってわけだ」
 つまり、それがあのタケノコ状態だったということらしい。故障でもないのに機巧が停止してしまうというあたり、黒田の運の悪さは相も変わらず絶好調と言ったところか。
「おい、右目の」
 ふいに呼びかけられ、片倉が怪訝そうに黒田を見やる。
「お前さん、なぜ小生を半兵衛と間違えた」
「地面から飛び出していたそいつが、あいつの一夜城に似ていると思っただけだ」
「それだ。いいか右目。あの一夜城はな、小生がいなけりゃ完成しなかったんだ!」
 黒田はやおら鉄球から腰を浮かすと、片倉の方へずんずん近づいてきた。
「半兵衛が諦めかけてたところに小生が知恵を出してやったってのに、豊臣の奴らときたら半兵衛ばっかり持ち上げやがって! 最初の案は確かに半兵衛が出したがな、全体を回して上昇させるっていう肝心要の機構を考えたのは小生だ! 実際の設計だって、小生がやったんだぞ! 何だ畜生、もっと敬えってんだよ!」
 唖然としている片倉に向かって訴えているというよりも、声の大きい独り言といった様子である。
「お前さんもお前さんだ、どうして小生の角土竜を先に思い出さない! いくらこいつが新型で、お前さんが初めて見るものだったとしてもだ!」
 片倉は柄にもなく閉口した。元をただせば、片倉に一夜城を思い出させたのは政宗である。しかしここで、そんなくだらないことの責任を主に問うことのできる片倉ではない。どうしたものかと答えあぐねていると、黒田は前髪越しにじとりと片倉を睨んだ。
「ま、なんだ……少しばかりお前さんに八つ当たりしたところで、罰は当たるまいよ」
 咄嗟に避けた片倉の鼻先を、黒い塊がかすめた。黒田の手元から伸びた鎖に引っ張られ、鉄球が鈍く風を切り、ずん、と地面にめり込む。
「つきあってもらうぞ、竜の右目」
 片倉は軽くこめかみを押さえ、主を見やった。案の定、政宗は黙ってにやにやとこちらを見るばかりだ。気晴らしの相手くらいしてやったらどうだ、ということだろう。やれやれといった表情で目を閉じ、片倉は小さく息を吐いた。
「……いいだろう」
 下段に構える。視線が黒田を捉えた。
「骨が折れたらご愁傷だ」
 黒田は緩慢な動作で半身になり、枷のついた逞しい両腕を後ろへ引くようにして構えた。
 鉄球という重しのために、黒田は決して素早くは動けない。しかしその一撃は、速度という欠点を補ってなお有り余るほどの威力がある。骨が折れたらご愁傷、と黒田は嘯いてみせたが、まともに食らえば骨を折るだけではとても済むまい。
 ではどうするか。
 やはり突くべきは速度という弱点である。
 先に動いたのは片倉だった。大きく前に踏み込み、刺突。
 枷で防がれる。予測済み。
 間合いを詰めたまま続け様、刀身閃かす。切先の軌道は変則、精密に変則。枷が軋む。割れはしない。
 大きく振り抜く。一瞬。防ぎが解かれる。
 今!
 大きく前に踏み込み、刺突。が、手応えなく空を穿つ。
 転げるように避けた体は、ほぼ真横に。勢い乗せて黒い塊蹴り上げ、もろともに跳ぶ。ねじ込むような衝撃。
 腕から足元まで、圧。後ろ後ろへ押されるが、両脚はなんとか地を掴んでいる。刀一本で防ぎきったのは流石と言うべきか。
 再び転げ、流れのまま振られる腕。
 跳躍回避、僅かに速い。風に巻き上げられた砂礫は片倉を捕らえ損ねた。
 しかし間髪いれず、ずん、と衝撃。枷が鉄球に叩きつけられ、同心円状に伝わる揺れ。
 歯を食いしばる片倉。
 距離を取る暇なく、ひと際大きく衝撃。
 耐えきれず体が浮く。が、冷静に受け身。迫る鉄球をかわして、斬撃。捉えた。
 黒田が呻く。
 二撃、枷がかち合った。双方大きめに振り抜いて三撃。視線もかち合って、四撃。五、六、七、八、九、十、火花、火花、火花。
「はあぁっ!」
 撃!
 弾き飛ばされた黒田が膝をつく。眼前に、切先。
「……ふん」
「気が済んだか」
「……ま、このくらいで止しといてやるよ」
 こきり、と首を鳴らして黒田が立ちあがる。片倉は納刀しつつ下がった。
「お天道さんを拝むのも、実は久しぶりでね」
「相も変わらず穴掘り暮らしか?」
 遠巻きに眺めていた政宗が近づいてくる。
「地の底から天下を狙うとは、eccentricな奴がいるもんだと思ってたが……アンタにはmatchしたやりかたなのかもな」
「お前さんには考えもつかんだろ?」
 黒田とは以前、西国で顔を合わせたことがあった。同じく天下を狙う者同士ではあるが、互いにまだ本気でやりあう段階ではないと考えており、また豊臣という共通の因縁を抱えていることから、そこそこの友好関係ではある。と言っても、双方の本拠地が遠く離れており、また黒田にいたっては日ノ本の地下を密かに東奔西走している有様であるため、平生連絡を密に取り合う程の仲ではなかった。正式な同盟関係というわけでもない。
「もう少し手前で地上に出るはずだったと言ったが、どこを目指していたんだ?」
「上野と下野の国境あたりだな」
「Ah? 宇都宮領のど真ん中じゃねえか。また随分北へ行き過ぎたな!」
 政宗が愉快そうに言う。
「いや、角土竜参號機の動力に、四国から仕入れた新しい機構を使ったんだが、こいつがとんでもないじゃじゃ馬でな! 馬力はあるんだが、気紛れで中々言うことを聞かん。あとで苦情を入れてやるつもりだ」
 品質は悪くないが、いかんせん癖が強くていかん、と黒田はぶつぶつ言っている。四国と言えば、機巧の開発に惜しみなく財源を注ぎ込んでは赤字記録を更新している海賊の本拠地だ。首領たる西海の鬼こと長曾我部元親は、政宗も片倉もよく知った顔である。
「変わりねえか、西海の鬼は」
「ああ。部品買い取ってやると言ったら、遠慮なくふっかけてくる程度には元気だよ」
「万年金欠で苦しんでるからな、あそこは」
「自慢じゃないが、小生これでも倹約上手でね。多少大きな買い物をするくらい、屁でもないのさ」
 にやり、と不敵な笑み。
 黒田は自身を「豊臣二兵衛のうち、より賢い方」であると標榜して憚らない。実際、かつては豊臣の中枢に身を置き、天才の呼び声高い竹中半兵衛に並び立つ軍師として、采配を揮っていた男だ。戦局の読みにおいては、その慧眼をいかんなく発揮する。
 しかし、その並外れた頭脳をもってしてもどうにもできない致命的な運の悪さ、巡り合わせの悪さが、この男を常に苦しめていた。やることなすこと、とにかく裏目に出やすい。確かに当の本人にも、口が悪くて交渉に不向きという軍師にあるまじき欠点があるにはあるのだが、それだけが原因とは思えないのである。何をどうやったら失敗するのかわからない場面で失敗してみせるという、一種の奇跡を起こすのが黒田官兵衛という男であった。
 だが、決してそれだけではない。曲がりはすれども折れず、沈みはすれども必ず浮かび、繋がれようとも足掻き続けることをやめない。
 究極の不屈、あまりにも頑丈すぎる身心。
 それに裏打ちされた大胆不敵。
 片倉も伊達においては、軍師という位置にある。同じ肩書きの者として、そして二兵衛のもう一方と浅からぬ因縁を持つ者として、片倉にはこの泥臭い男の存在が、異様に大きなものに見えていた。本気で敵に回そうと思ったら、これほど厄介な相手は他にそう何人も思いつくものではない。
「おい官兵衛さん、駆動輪に連結帯が絡まって大変なことになってるぞ!」
「何ぃ!? どうしてそんなところが壊れるんだ!」
「……」
 片倉は何か損をしたような気分になりつつ、こめかみを押さえた。




黒田登場回でした。

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