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なまもののさけび

とりあえずつらつらとかきつらねます

05.28.13:18
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  • 05/28/13:18

10.19.23:37
10


「ほお、こいつは旨いな」
「だろ」
 政宗が得意げに胸を張る。
「地下にいる間はろくなもん食ってねえだろ?」
「そりゃ余計なお世話だよ!」
「ははは、違ぇねえや!」
「ホントのこと言われちまったなぁ官兵衛さん!」
 周囲から笑いが起こる。
「だってよ」
「おいおい、お前さんたちまで乗っかるんじゃないよ! ……ま、旨いから許してやるけどな!」
 言って、黒田は餅料理を頬張った。再び周囲から笑いが起こる。
 原因不明の故障で動かなくなった角土竜参號機を修理するため、黒田軍はここ数日、伊達領に逗留していた。寝泊まりは穴道に降りれば問題ないからと、屋敷に上がることはしておらず、食事も自分たちで用意している。
 とは言っても一応は伊達の客分として扱われているのだから、飯くらい食っていけという政宗の誘いで、今夜は屋敷に伊達軍と黒田軍が集まり酒宴を催していた。どちらも酒飲みと宴会好きの多い集団である。兵たちはすぐに意気投合した。
「うちは酒豪が揃ってるからな、酒蔵が空になったらすまんね」
「そいつを気にすんのは野暮ってもんだぜ。どんどん飲みな。アンタもいけるクチなんだろ?」
「まあな」
 まあな、どころではないだろう、と横で見ていた片倉は思った。水でも飲むような飲み方をしているというのに、黒田は素面も同然の様子である。酒に弱くはないが強くもない自分の主が、変な対抗意識を持って無茶をしやしないかということだけが気懸りだった。
 やれやれと嘆息しつつ、周囲を見回す。兵たちは庭のあちらこちらで車座を作り、思い思いに飲み騒いでいる。踊りだす者、歌いだす者もいる。たまの息抜きとしては、いい機会だろう。片倉は盃を取り、口をつけた。いい酒だ。
「……ん?」
 二口目を飲もうとして、手が止まる。体格のいい黒田兵に交じって、見慣れない小柄な人影が目に入った。顔はよく見えないが、いでたちは兵装である。まさか小姓というわけでもあるまい。
「どうした右目、ぼんやりして。もう酔いがまわったか?」
「ああ、いや……」
 焼いた干し魚をかじりながら、黒田が肘で片倉を小突いた。
「あそこにいる子供は誰かと思ってな」
「おう、あいつか」
 黒田は魚を尻尾まで口に押しこんでもぐもぐと咀嚼し飲みこむと、立ちあがり「長政」と呼んだ。座っていた子供がこちらを見る。
「独眼竜と右目に挨拶しておけ」
 席を立ってこちらにやってきた少年を、片倉は思わずしげしげと眺めてしまった。華奢とまではいかないが、戦場に出すのも躊躇われるような細腕だ。黒田本人をはじめ屈強な男の多い黒田軍の中では、余計にそう見えるだろう。
「お前さんたちと顔を合わせるのは初めてだったな。倅だ」
「黒田吉兵衛長政と申します」
 長政はぺこりと頭を下げた。
「奥州筆頭・伊達政宗。こいつは片倉小十郎だ。Nice to meet you, junior」
 片倉は会釈し、改めて長政の顔を見た。格子状の面頬のようなもので口元を覆っており、父親と違い目は隠していない。
 しかし、その目が問題だった。
 未発達な体躯とはおよそ釣り合わない、覗けば吸い込まれそうな深い黒。ガキのくせしてなんつう目をしてやがる、と片倉は苦々しく思った。前髪に隠れた父親の目も、ひょっとするとこんな色なのだろうか。
「それ、食う時に不便じゃねえのか?」
「下が開いていますから」
「Really? ちょっと見ていいか」
 そんな片倉をよそに、政宗は長政に興味を持ったのか、早速盃片手に隣へ陣取っている。黒田はさっき食べた魚が気に入ったらしく、二匹目に手を出していた。枷のついた手で器用に魚をつまみあげる様子を見やると、苦笑しつつ溜息をひとつ吐き、片倉は空になった盃に酒を注いだ。一息に飲み干す。
「……しかし、テメェに倅がいたとはな」
「秘蔵っ子でね」
 二匹目の魚をかじりながら、黒田が答える。
「鋭意育成中……ま、有体に言えば経験不足だ。練度で言えば、黒田八虎の方がずっと上だろうよ」
「黒田八虎?」
「うちの戦上手を七人まとめてそう呼んでる」
「七人で八虎じゃ、おさまりが悪かねぇか」
「聞いた話じゃ、どこぞの四天王は五人いるらしいぞ。……それは冗談として、元は八人いたさ。一人、永久欠番なんだよ」
「……そうか」
 聞いてはいけないことを聞いたかもしれない。
 始めから七人であったならともかく、元々八人いたのが七人になってしまったというのなら、話は別だ。一人減ってしまう何らかの理由があったのに違いない。どんな理由なのかはいくらでも想像できるが、面と向かってそれを聞くのは流石に躊躇われた。魚を咀嚼している黒田の顔には、これといった表情は浮かんでいない。
 なんとも言えない気まずさを感じながら、片倉は盃に口をつけた。
「……変な気は使わんでいいぞ」
 ごくり、と魚を飲み下し、黒田が呟いた。片倉の手元で、盃がたぷん、と音を立てる。
「優秀な奴でな、一の部下と言ってよかった」
「そりゃ……残念だったな」
「ああ。貴重な兵法書読みだったからな、おかげで知性派が減っちまったよ」
 無表情のまま残りの魚を口に押しこむと、黒田は黙ってそれを咀嚼した。片倉も黙り、ちびちびと酒を口に運んだ。
「……ときにお前さん、今の話を聞いてうちに来る気にはならんか?」
 危うく酒を噴き出しそうになり、片倉はむせ返った。黒田はそれをにやにやと眺めている。
「どうだ。今なら第二軍師の席が空いてるぞ」
「めげねぇ野郎だ……」
 前向きもここまでくるといかがなものかと思わぬでもない。
「お断りだ。……大方、竹中への当てつけだろ」
 眉根を寄せつつ口元を拭う。竹中半兵衛がどういうわけか片倉を気に入り、ことあるごとに豊臣へ勧誘していることを、この男が知らないはずがない。
「おいおい、随分と小生を見縊ってくれるじゃないか。故人への当てつけを考えるほど器の小さいつもりはないぞ」
「……いま、何つった?」
 そうかよ、と生返事を返しかけた片倉の目が僅かに見開かれた。
「え?」
 黒田が首を傾げる。
「……竹中半兵衛」
「……ほう」
 きょとんとしていた黒田の顔が、得心いった、という表情に変わる。
「お前さん、さては知らなかったな?」
 黒田はにじり寄ってきて、声を落とした。
「半兵衛の奴な。しばらく前に逝っちまったよ」
 愕然としている自分に、片倉は苛立ちを覚えた。同情してやる義理など一切ない相手だというのに、何を俺は。
「……そう、か……」
 そう返すのがやっとだった。言いようのない虚脱感。いつ、いなくなったのだろう。考えてみれば、最後に相対したのはもう随分と前のような気がする。警戒し続けてきた自分が滑稽に見えた。 そんな片倉の様子を、黒田は意外そうに眺めている。
「……堪えたか、右目」
「そんなわけあるか」
 むすっとした表情を作り、片倉は盃になみなみと酒を注いであおった。そしてむせた。膝に雫がぼたぼたと落ちる。黒田は見ないふりをして、皿に残った最後の魚に手を伸ばした。
「あいつはお前さんにご執心だったな」
「……迷惑極まりねぇ話だ」
「だろうよ」
「……竹中がいなくなったってことは、豊臣の内部も変わってるはずだ。戦力の分割も……クソ、調査不足だった」
「どうやら伊達は出遅れてるみたいだな。……そんなお前さんたちに、耳寄りな情報をやってもいいぞ」
 わざとらしい声音で、黒田が言った。
「が、タダではやらん。交換条件だ」
「交換条件だと」
 僅かに赤らんだ酔眼を向け、訝しげに片倉が返す。黒田は曰くありげに笑んだ。
「少し、独眼竜と話をさせてくれんかね」

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