05.30.15:42
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01.12.16:09
紅藍 2
二話目更新。
ヒロイン(?)がちょっとだけ登場です。
※注意
この作品はパラレル、フィクションです。登場する設定や地名は実在のものとは関係ありません。作品世界はある程度の時代考証をしていますが不完全であり、創作要素を含むことをご了承ください。また、偏った表現を含む場合がありますが、時代背景を考慮してのものであることをご理解ください。
雲雀曰く。
芳町は、元々芝居小屋の多い土地だったらしい。その所為で、芝居の裏稼業とも言える陰間茶屋も自然と増えていったのだという。
「今この地域で営業してるのは、あの店一軒きりだね。合法非合法はともかく」
「なんだ、随分と規制がぞんざいだな……」
「お上も、ここらの土地の事情は面倒でうんざりしてるんだろう。構っているだけ時間の無駄、とね。そこまでおおっぴらに商売をしているわけじゃないから、黙認してるんだろうさ」
表の広い通りに車を待たせておいて、そこからは狭い裏道を歩いてゆく。道すがら、ガンマは思いついたことを色々と雲雀に聞いてみた。雲雀は面倒臭そうにしつつも、大方のことは教えてくれた。この国に強い愛着を持っているらしい雲雀のことだ、日本人は不親切だという不名誉な印象を、このイタリア人に与えたくなかったのかもしれない。
もっとも、質問者はそこまで事を重大に考えていなかったらしい。質問をしておいて、それで退屈な答えが返ってくると、ガンマは初めは聞いているのだが段々上の空になってきて、仕舞いには上辺を耳に入れつつ生返事気味に相槌を打ちながら、それとなく辺りを見ながら歩いていた。
殊に狭い道へ入ったときにも、塀を伝って歩いていく野良猫をからかったりしていたから、自分の後ろから人が小走りに近づいてきて、そのまま追い抜こうとしてきたのを避け損なった。肩がぶつかり合う感触。ガンマにぶつかってきた相手は、そのままよろけて転びかけた。咄嗟にその体を支える。
「失礼。お怪我は?」
「いえ……大事ありませぬ」
幾らか低めの声が、静かに答えた。
薄化粧をした顔に切れ長の目。髪は結い上げず、子供のように切り揃えてある。年の頃はよくわからないが、大分若いように見えた。元々童顔なのかもしれない。
「失礼いたしました」
急いでいるのだろうか、謝罪もそこそこにガンマの手からするりと抜け出ると、ぺこりとお辞儀を一つして路地の向こうへと足早に去っていった。
「…………」
白粉の匂いだろうか、甘い香りが腕の中に残っている。
顔をまじまじと見たわけではないが、ふっくらとした唇の辺りなど、なかなかガンマの好みだった。引き止めるなり住所を聞くなりして、あとでどこかで茶の一杯でもご馳走してやるくらいしても良かったかもしれない。
「……ちょっと、いつまでそこでボサッとしてるつもりなのさ」
呆れたような雲雀の声に、妄想が両断される。
「んん? あ、いや…」
「あの子なら、また会えるよ」
「え?」
「会いたいなら、早く行くんだね」
くつくつと喉の奥で笑いながら、雲雀はさっさと歩いていってしまった。
「……そら、着いた」
路地を抜け、僅かに広がった場所にそれはあった。
一見して、そういう店だとはわからないだろう。どこにでもあるような、小さな宿屋のような佇まい。玄関先はひっそりとしていて、看板も何も掲げていない。しかし、そうやって当たり障りの無い様子であるのが、かえってどこか異様な空気を醸し出しているようにもガンマには思えた。
「君がさっきぶつかった子だけど、ここにいるよ」
「それは、住み込み女中かなにかで?」
「冗談。彼はここじゃ有名なんだ」
一抹の違和感。
それが、彼、という言葉の所為だとわかると一瞬停止し、
「…………さっきのって男か?!」
我に返って叫ぶ。
「何、気づかなかったの? 見る目が無いね」
呆然としているガンマに向かって失礼な評価を遠慮なく述べると、雲雀は店の戸を開けた。
「…おや、珍しい方がいらした」
髪を後ろで結わえた細身で色白の青年が、ガンマを見るなり……ではなく、それよりも前にいた雲雀を見るなり、言った。
「息災のようだね」
「御陰様で」
どうも顔見知りらしく、親しげに言葉を交わしている二人をそれとなく見比べていると、青年と視線がぶつかった。
「そちらは?」
「美校の先生のお弟子さん」
「ああ、貴方が……」
合点がいったという顔をして、改めてガンマを見る。
「ろく、と申します。お話は、なぎ——妹から伺っておりますよ」
しなを作るようにお辞儀して、にこ、と艶っぽい笑みを拵えてみせる青年。
見たところまだ若いようだが、それに見合わない成熟した印象すら感じさせる。全く華美な装いではないのだが、その代わりに滲み出るような色気がある。きっと、本気になれば男でも女でも構わず落とせるに違いない。
「——ろく、紅藍はいるかい?」
また下世話なことを考え始めたガンマには構わず、二人は話を進めている。
「おやおや…今日は本当に珍しいですね」
「早合点するんじゃないよ、僕じゃない。こっちの彼だ」
「え?」
話を聞いていなかったところ、突然ぐいと背中を押されて、ガンマは目を瞬いた。
「クフフ……成る程、わかりました。ではご案内しましょう」
ニコニコしながらろくがその腕をとり、半ば引きずるようにして奥に連れていく。
「ちょ、ちょっと……」
「さっきの子に会いたいんだろ? 一晩奢ってあげるから、遊んでおいでよ」
「ええ?! 待てって、まだ心の準備が——」
ズルズルと引きずられていきながら、抵抗を試みるガンマ。ろくは涼しい顔をしている。
「茶屋は初めてですか?」
「え? あ、まあ……って、そうじゃなくてだな!」
「ゆっくりしていってください。紅藍はうちの店でも一番人気でしてね、是非身請けしたいと仰っているお客様もいるくらいで——」
「人の話を聞けーーーー!!!」
ガンマの叫びが、虚しく廊下に響いた。
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