05.30.14:17
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12.30.19:29
執筆順リク小説その4
12月24日に拍手でリクくださった方、お待たせいたしました。
初めての初代組。
ジョットと朝利雨月。
著しく捏造の臭いがします。
「蘭陵王」
滞りがないというのも考えものだと、その若い東洋人は言った。
未だに着慣れない洋装が落ち着かないのか、先程から袖口の辺りをしきりに気にしている。骨組みのしっかりした、それでいてけっして無骨ではない指が、緩慢な仕草で袖ボタンの列をなぞっているのを視界の隅に薄らと捉えながら、ジョットはペン先でカリカリと帳面を引っ掻いていた。不必要なほどきちんと背筋を伸ばして椅子に腰掛けた黒髪の男がこちらの返事を待っているのであろうことはわかっていたが、ジョットはわざと返事をしなかった。少しでも気を許せば足元から這い上ってくる疲労や睡魔と戦っていたから、というわけでもない。その言い様が相変わらずどことなく遠回しで意図の掴みにくい表現だったからだと言えば一応言い訳の格好はつく。
半ば投げやりなアンプロンプチュを綴る音が、奏者の意向に即して先の発言を完全に黙殺している。
軽快な走行に早くも渇きを訴え始めたペン先をインクに浸すその一瞬のうちに、それまでこちらの視線を捕らえることに失敗し続けていた墨色の瞳——インクの黒より芳しい、あるいは香り高い色だと、ある男は評した——の目標捕捉可能範囲内にうっかり取り込まれてしまったことに気づいたが、ジョットはやはりそれでも黙っていた。黙ったまま顔を上げて、東洋人にしてはやや彫りの深い部類に入るであろうその顔を、斜めから見た。
ランプの灯を淡く映した墨色を僅かに眇めつつ、そうしていて息が切れぬかと朝利雨月は言った。先端を潤したばかりのペンを持ったまま頬杖をついて、斯様に柔と思ってもらっては困るとジョットは返した。返すついでに、こちらはやはり貴様には不自由かと聞いた。世話になっていて何の不自由があるものかと雨月は答えた。それから、二人とも声を立てずに笑った。
お互いに、本音などこれっぽっちも言っていないことはわかっている。知らないわけがない。だからこそ、知らないふりをする。気づいていないふりをする。相手の急所を抉れば、次にやられるのは自分だ。
しかしその急所を突かれたときに一番痛いのは、突かれた本人ではなく突いた方であることもまたよくわかっていた。見てはいけないものを見てしまったあとの気まずさ程、短時間で拭い去るのが難しいものはなかなか他に思いつかない。ここへきて、そんなものを引きずることは許されない。そんなことで周囲に影響を及ぼしている暇はない。そんなつまらない障害物競走をしている暇は、ない。
だから、隠す。
たとえば笑顔で。たとえば無表情で。たとえば憤怒で。たとえば————
面(おもて)を覆うのも、また面。
ひとりの宰相と、ひとりの兵士。
被った仮面は、守るためか、失うためか。
紐に吊られたその顎が落ちる日まで、舞は続く。
滞らないでいるのに越したことはないと、仮面の下から呟いたのは誰だったか。
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