05.24.21:07
[PR]
12.18.11:57
紅藍 1
やっとこさ第一話です。
リクしてくださった某様、お待たせいたしました。
※注意
この作品はパラレル、フィクションです。登場する設定や地名は実在のものとは関係ありません。作品世界はある程度の時代考証をしていますが不完全であり、創作要素を含むことをご了承ください。また、偏った表現を含む場合がありますが、時代背景を考慮してのものであることをご理解ください。
日本橋まで頼みたい、とその外見に似合わず流暢な日本語で話しかけると、車引きはどこか物珍しそうな、しかしけっして不躾ではない視線を送りつつ、感心したような表情で、あいよ、と一声返した。左のこめかみ辺りに傷のある、若い男だ。
「珍しいかい」
「何がです?」
「外人が乗ってくるのが」
「いいや、近頃はそうでも」
せんだっても一人送っていったんですよと、若い車引きは言った。
「その旦那も、日本橋へ」
「そりゃ奇遇だ」
「芳町の方ですから、方向が違いますけどね」
日本橋にある「師匠」の知人宅へ使いに行ったあと、ガンマには特に予定がなかった。門前に待たせておいた車引きに、この辺りに何か面白いところはないかと聞こうと思って、ふとさっきの「芳町」という言葉を思い出した。
「なあ、芳町てのは何があるところなんだい」
「え? ああ、あの辺は……」
何故か困ったような顔をすると、車引きは口ごもった。どうしたのだろうかと怪訝な顔をしていると
「芳町に行く客は、大抵茶屋が目当てだね」
いつの間にか、もう一台の車がそこへ止まっていた。乗っているのは、上品そうな面立ちをした洋装の青年である。
「ああいうものを売りにする店は大分廃れているけど、隠れるように生き残っているのがまだ幾らかあるのさ」
「おお、雲雀ではないか! 久しいな!」
「やあ了、精が出るね」
先程までのかしこまったような口調を崩し、人懐っこそうな笑みを浮かべて車引き——了は、青年の方を振り返った。雲雀、と呼ばれたその青年はガンマの方を見ると
「美校の先生のお弟子さん、だったかな」
「何でそれを?」
見知らぬ男に自分の身分が知られていることに驚きと疑念の表情を浮かべる。
「知人の妹が貴方の先生に教わっていてね。先生が貴方のことも話されるんだそうだよ。それを人づてに聞いたまでさ」
雲雀は涼しい顔で答えると、了の方を顎でしゃくった。
「ちなみに、彼は侍上がりでね。喋り方が堅苦しいのは見逃してやってあげてよ」
そう言われてみると、自分だけだったときの口調はどこかたどたどしかったようにもガンマは感じていた。成る程、口調を変えようとしていた結果らしい。
「これでも努力しておるのだがな…どうも長い間の習慣は抜けん」
頭を掻く了を横目で見てから、雲雀は再びガンマに視線を戻した。
「興味があるなら行っても構わないと思うけれど…あそこは好みによるよ」
「好みって言うと、どういうものなんだ?」
「あそこには、陰間茶屋があるのさ」
「カゲマ?」
聞き慣れない言葉だったらしく、首を捻るガンマ。
「そうだな、説明すると……男の相手をする男が侍ってる茶屋、ってところかな」
「ああ…」
言われれば、理解は簡単だった。つまり男娼、ということらしい。
「……行くかい?」
「ん……見聞しておいても損はなさそうだな」
そういうものを見ることでインスピレーションでも得ようと、この画家見習いが思ったかどうかは定かではないが、少なくとも十分に興味をそそられたらしかった。
「物好きもいたものだね……まあいいさ。僕はどちらにしろ、そこへ行く途中だったんだ……哲」
「へい」
「行くよ。…それじゃあ、お先に」
軽く会釈をして、雲雀は行ってしまった。了は梶棒を持つと
「……行き先は、芳町で?」
「ああ、頼む」
何の迷いも無く、ガンマは答えた。
PR
- トラックバックURLはこちら

