05.29.04:48
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09.04.00:42
捧げ物
空里さんへの相互記念山獄教師パロ小説です。
お持ち帰りは空里さんのみとさせていただきます。
「なんか警告受けてるみたいで」
拭いていた眼鏡をかけて、ベンチに凭れると空を仰ぐ。
「あんまり好きじゃねえんだよな、その音」
染まりつつある空に浮かぶ鰯雲を目線だけで数えた。
「そうか?気合い入ると思うんだけどな」
すぐに数えるのを諦める。というより、諦めざるを得なかったという方が正しい。
「俺は嫌いじゃないぜ、この音」
体を折って上から顔を覗き込み視界を塞いだ山本を、片手で軽く押しやる。
「近ぇよ、アホ」
先生、呼子を使って自分の子を呼んでる人を見たことがありません。
学校の敷地から少し離れた場所にある、第二グラウンド。いつもここで練習をしている野球部やサッカー部の姿も、練習時間を過ぎた今は見当たらない。照明も落として静まり返ったその場所の片隅、やや腐った木製のベンチに座っている獄寺と、そのすぐ横に立っている山本。ただでさえ細長いその立ち姿は、夕日を受けて地面によりいっそう細長い影を落としていた。
「……つか、吹いたこともないな」
それ、と山本の首からぶら下がっている黄色いホイッスルを顎でしゃくってみせる。体育教師のシンボルと言ってもいいそのプラスチックの笛は、机の上で数字と戯れているのが仕事である獄寺にはてんで縁がないシロモノであった。
「吹いたことねーの?」
「普通、吹くような機会ってないだろ」
「そういや、体育係とかもやってなかったか」
「やらねーよ。そもそも体育に出るのも怠かったからな」
「でも出るには出てたよな」
「十代目にご心配かけるのは申し訳ないだろうが」
ちなみに十代目、というのは校長であり友人である沢田綱吉のことである。念のため。
「……体育じゃなけりゃ、お巡りか交通整理のおっさんくらいしか」
「あれ、一昨年あたりの忘年会で誰か吹いてなかったっけ?」
「……サンバ用と体育用って同じ種類じゃねえと思う」
一昨年の忘年会……あのパイナップルは、十代目に止められなければいつまで踊っているつもりだったんだろうか、なんていう今この瞬間においてはどうでも良すぎる記憶を引っ張り出しかけて、違う違うと慌てて我に返った。
「何でもいいけどよ、やっぱりホイッスル吹く機会なんてそう頻繁にあるわけじゃねーだろ」
言いつつ、のろのろとベンチから立ち上がる。沈みかけの夕日が眩しい。ポケットからはみ出していた煙草の箱を押し込んで、一歩踏み出そうとしたら腕を掴まれた。何事かと黙ったまま訝しげな視線を向けると
「吹いてみるか?」
何事もなさそうな声が返ってきた。
「別に吹きたいって言ったわけじゃねーだろ」
「いいじゃねーか、機会がないんだろ?」
山本はにこにこしながら、首からホイッスルを外して獄寺の首にかけた。仕立ての良いスーツに、蛍光色の黄色が不釣り合いだった。
諦めたような、渋々といった表情で——実際は少し好奇心があったのに違いないが——獄寺はホイッスルをつまみ上げ、先端を少しくわえて、そっと吹いた。
——ひゅう
と、隙間風のような空しい音が、からからと玉のぶつかるこれまた空しい音をともなって、出ただけであった。当然の結果である。
「……不良品なんじゃねーのか、これ」
無論、負け惜しみである。
「こういうのは、もっと思いっきり吹いていいんだって」
フゥーッてさ、と山本は息を吹き込む仕草をしてみせた。面倒臭そうな顔をしながらも獄寺はもう一度ホイッスルをくわえた。すう、と息を吸って、思い切り吹き込む。
ぴりりりり————————————………
乾いた音色が真っ直ぐに、夕焼けに向かって走っていった。
「明日もいい天気だなー」
白い歯を見せて、山本が笑った。
「今度さ、一個買ってやろうか」
「いいって……使い道ねーし」
「や、こういうのじゃなくてさ……もっとカッコいいの。銀色の奴」
「だから何に使うんだっての」
「……アクセサリー代わりにでも」
「お前みたいな体力馬鹿だけだそんなのつけてて似合う奴」
「そうかなー?」
お揃いにしたいんだけどなあ、と呟いた山本の頭を、調子乗ってんじゃねーよ、と獄寺が小突いた。
並んで歩く長い影が二つ、伸びて伸びて、ぐっと伸びて——夕闇に、ふっと消えた。
「……なー獄寺、思ったんだけどさ」
「……今度はなんだよ」
「さっきのってもしかして、間接キス?」
「いっぺん死んでくるかこの野郎」
お持ち帰りは空里さんのみとさせていただきます。
「なんか警告受けてるみたいで」
拭いていた眼鏡をかけて、ベンチに凭れると空を仰ぐ。
「あんまり好きじゃねえんだよな、その音」
染まりつつある空に浮かぶ鰯雲を目線だけで数えた。
「そうか?気合い入ると思うんだけどな」
すぐに数えるのを諦める。というより、諦めざるを得なかったという方が正しい。
「俺は嫌いじゃないぜ、この音」
体を折って上から顔を覗き込み視界を塞いだ山本を、片手で軽く押しやる。
「近ぇよ、アホ」
先生、呼子を使って自分の子を呼んでる人を見たことがありません。
学校の敷地から少し離れた場所にある、第二グラウンド。いつもここで練習をしている野球部やサッカー部の姿も、練習時間を過ぎた今は見当たらない。照明も落として静まり返ったその場所の片隅、やや腐った木製のベンチに座っている獄寺と、そのすぐ横に立っている山本。ただでさえ細長いその立ち姿は、夕日を受けて地面によりいっそう細長い影を落としていた。
「……つか、吹いたこともないな」
それ、と山本の首からぶら下がっている黄色いホイッスルを顎でしゃくってみせる。体育教師のシンボルと言ってもいいそのプラスチックの笛は、机の上で数字と戯れているのが仕事である獄寺にはてんで縁がないシロモノであった。
「吹いたことねーの?」
「普通、吹くような機会ってないだろ」
「そういや、体育係とかもやってなかったか」
「やらねーよ。そもそも体育に出るのも怠かったからな」
「でも出るには出てたよな」
「十代目にご心配かけるのは申し訳ないだろうが」
ちなみに十代目、というのは校長であり友人である沢田綱吉のことである。念のため。
「……体育じゃなけりゃ、お巡りか交通整理のおっさんくらいしか」
「あれ、一昨年あたりの忘年会で誰か吹いてなかったっけ?」
「……サンバ用と体育用って同じ種類じゃねえと思う」
一昨年の忘年会……あのパイナップルは、十代目に止められなければいつまで踊っているつもりだったんだろうか、なんていう今この瞬間においてはどうでも良すぎる記憶を引っ張り出しかけて、違う違うと慌てて我に返った。
「何でもいいけどよ、やっぱりホイッスル吹く機会なんてそう頻繁にあるわけじゃねーだろ」
言いつつ、のろのろとベンチから立ち上がる。沈みかけの夕日が眩しい。ポケットからはみ出していた煙草の箱を押し込んで、一歩踏み出そうとしたら腕を掴まれた。何事かと黙ったまま訝しげな視線を向けると
「吹いてみるか?」
何事もなさそうな声が返ってきた。
「別に吹きたいって言ったわけじゃねーだろ」
「いいじゃねーか、機会がないんだろ?」
山本はにこにこしながら、首からホイッスルを外して獄寺の首にかけた。仕立ての良いスーツに、蛍光色の黄色が不釣り合いだった。
諦めたような、渋々といった表情で——実際は少し好奇心があったのに違いないが——獄寺はホイッスルをつまみ上げ、先端を少しくわえて、そっと吹いた。
——ひゅう
と、隙間風のような空しい音が、からからと玉のぶつかるこれまた空しい音をともなって、出ただけであった。当然の結果である。
「……不良品なんじゃねーのか、これ」
無論、負け惜しみである。
「こういうのは、もっと思いっきり吹いていいんだって」
フゥーッてさ、と山本は息を吹き込む仕草をしてみせた。面倒臭そうな顔をしながらも獄寺はもう一度ホイッスルをくわえた。すう、と息を吸って、思い切り吹き込む。
ぴりりりり————————————………
乾いた音色が真っ直ぐに、夕焼けに向かって走っていった。
「明日もいい天気だなー」
白い歯を見せて、山本が笑った。
「今度さ、一個買ってやろうか」
「いいって……使い道ねーし」
「や、こういうのじゃなくてさ……もっとカッコいいの。銀色の奴」
「だから何に使うんだっての」
「……アクセサリー代わりにでも」
「お前みたいな体力馬鹿だけだそんなのつけてて似合う奴」
「そうかなー?」
お揃いにしたいんだけどなあ、と呟いた山本の頭を、調子乗ってんじゃねーよ、と獄寺が小突いた。
並んで歩く長い影が二つ、伸びて伸びて、ぐっと伸びて——夕闇に、ふっと消えた。
「……なー獄寺、思ったんだけどさ」
「……今度はなんだよ」
「さっきのってもしかして、間接キス?」
「いっぺん死んでくるかこの野郎」
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